~進化~

19話 ちゅー



 ヴァーミル王国での防衛戦を終え、ひとまずの安息が訪れる。

 しかし、その代償は大きく王国政府は当分の間復興へと力を入れるため、武器製造の稼働率を落とし国民の生活基盤の復活を最優先にする方針となった。


 そして、ドクターアインとの対話の方は、俺自身の秘密。そして、それを周囲が知っているのかどうか。いくつかの疑問をぶつけた物のそれらに明確な答えは出なかったのであった。


___________________


「カナデは先生と何の話していたの? 」


「あぁ、記憶喪失になる前の事とか、どうしたら記憶が戻るか、とかだよ。どうやら記憶を無くす前の俺と、今の俺とでは人が全然違うみたいでさ」


 先生との対話の後、部屋に突撃してきたメルに車椅子を押されながら雑談中だ。

 だが、真相を話すにはまだ自信がないから嘘の内容を話していく。


「へぇ……別に今のカナデも私は好きだよ? カナデはカナデなんだし! とー! 」


 メルは、はにかみながらそう言うと、赤くなった頬を隠すように駆けだした。


「ちょ! わっ! メル危ないぞ!! 」


「へーきへーき!! 私のドライビングテクニックを舐めてもらっちゃ困るよ! 」


 今日もメルは元気です。



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 夕日が辺りを照らし始めた頃。王国を一望出来る高台にある公園に二人の男女の姿があった。



「何……? 私に伝えたい事って……? 」


「最近メルのことばかり考えていたんだ」


「え、え! そ、そうなんだ……」


「あぁ。中々言い出せずにいたんだが、決心が付いた」


「えぇ! 何の事かな……」


「メル。俺と付き合って欲しいんだ」


「─────っ! 」



 メルが気絶した。



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 突然メルが気絶して焦った俺は、近くのベンチへとメルを寝かせ様子を見ている所だ。


「まさか気絶するとは思わなかった……」


 メルに神姫として魔法の師匠になって欲しいと思い、公園に呼び出したのだがどうしてこうなったのだろう。


「うぅん……」


 メルが目を覚ましたようだ。


「あれ……。私……。カナデ!? 私どうしたの?! 」


「急に倒れるから心配したよ。はい、水」


 目を覚ますと同時にテンパり始めたメルに、ボトルに入った水を差し出す。


「ありがと」


 ごくごくとみずを飲み干すメル。その姿をぼんやりと見ていると、メルの顔が段々と赤くなっていく。


「大丈夫か? 顔が赤くなってるけど? 」


「え!? あ!? うん! 元気だよ!! 」


「それなら良かったよ。急に倒れたから何事かと」


 先ほどの出来事を思い出しながら頭をかく。


「っそそそそそそ!」


「そ? 」


 あわあわとメルは、両手を口元に寄せ涙目になっていく。


「それで!!!! ちゅーは!!!! 」


 ちゅー? 何のことだろう……。 俺は修行に付き合って欲しかったのだが……。まさか……。


「メル。何か勘違いしてないか」


「えー! カナデは私と付き合って欲しいんだよね? それならちゅーしないと! 」


 ……やはり、『付き合う』の意味を勘違いされてしまったようだ……


「ごめんメル。付き合うって言うのは「ちゅーーーーだよかなで!!」」


 物凄い力で顔を両手で挟まれてしまう。このままでは……!


「メル! 修行しよう! ちゅーはそれからでも大丈夫だから! 」


「えー! ちゅーするのに修行が必要なの? 」


 なにか勘違いしたようだが何とかこの場は切り抜けられたかな……?


「そ、そう! その為には2人で頑張らないとだ! 」


「2人で……!! 分かったよ! これからよろしくねカナデ♪」


 うまく誤魔化せたようだが、騙したようでモヤモヤするけれど、メルの為だ。これでよかったんだ。と自らに言い聞かせる。


「おう! それでなんだが……メルにだけにしか言えない事があるんだ」


「え……カナデ何か病気なの? 」


 メルの表情が曇る。


「いや、病気ではないんだ。でもみんなには知られたくない事なんだ。この事は誰にも言わないでくれると嬉しい」


「わかったよ!! 彼氏の言うことなんだもん! 」


 彼氏……。この際だから仕方ないか……。


「ありがとう。俺の秘密なんだが、実は俺……」


「実は? 」


「魔法が使えるんだ」




 ─────




 二人の間に静寂が訪れた。



「カナデも【神姫】なの? 」


 口元を引きつらせながらメルが質問をぶつけてくる。


「いや、【神姫】ではない。と思う。姫って書くし、俺男だし」


「そ、そうだよね! やだなーカナデがイケメンでも女の子な訳ないもんね! 」


 苦笑いしながらメルは背中を叩いてくる。


「痛い……。それでなんだけど、メルに魔法の使い方を教えて貰いたいんだ」


「ごめんごめん。んー。いいけど、私他人ひとに物事を教えるの苦手なんだよね」


 それもそうか……。まだ子供だもんな。人に何かを教えるって言うことはそうそうあることじゃない。この世界でもメルくらいの年齢だと小学校に通っているらしいけれど、メルは感覚派だろうしなぁ……。


「ちょっと。何か失礼な事考えないよね? 」


 メルがグイッと顔を近づけてくる。


「あ、あぁ。メルは出来る子だもんな! 信用してるよ」


 近づいてきたメルの頭を撫でながら嗜める。


「もー。私だって子供じゃないんだからね! とりあえず、今のカナデがドコまで魔法を操れるか、師匠から教えて貰ったやり方で試してみるね」


 メルは両手を組み背伸びをしながら言う。


「ちょっと待ってくれ。ココじゃ不味いから場所を移動しないか? 」


「そうだね……。じゃあ、手掴まって!」


 メルはそう言うと俺の手を強引に掴み、一気に飛翔した。




 10分ちょいの遊覧飛行を終えた俺達は、公園の更に奥。人が来ないであろう森の少し広くなった泉の側に到着した。


「じゃあ、とりあえず魔力を練ってみて! 」


 魔力を練る……か。この前のイメージでいいのだろうか。


「わかった。ふーーっ」


 深呼吸をして、丹田に力を集めるイメージで意識を集中する。すると、俺の周りの空気が動いているかのような感覚に襲われた。


「ん?! なんだ、コレは……?! 」


「あー。大丈夫大丈夫ー! そのまま続けてー」


 間の抜けた声でメルは言うが、この前と違う感覚に違和感は拭えない。


「わかった……! 」


 違和感と闘いながらも集中を切らさないように魔力を意識する。


「じゃあ、そのまま両手を前に出して、魔力を放出してみて」


「え?! 放出ってどうやるんだ?! 」


 

「んー、バーーーン! って出していいよ! 」


「……。ああ、分かった」


 メルの説明は正直分からなかったが、とりあえず魔力を飛ばせばいいのだろう。

 ある程度魔力が溜まったと感じたので、両手を前に出す。


「行くぞ! 」


「おっけー! 」


「ふんっ! 」


 丹田に溜めた魔力を腕を通して外に吐き出すイメージを作る。


 すると、見えない何かが目の前の木を吹き飛ばした。


「ん…… おー! 中々やるじゃん! んー。でも属性は無い感じなのかな? 風属性とか? 」


 メルが一瞬眉間に皺を寄せた気がしたが、すぐに笑顔になり魔法の属性の考察をし始めた。俺自身属性は分かっていないから興味はある。


「ふーっ。これでどうだ? 属性も分かるんだ? 」


 身体をほぐす為に、肩を回しながらメルに尋ねる。


「おっけーおっけーだよ! 昔の私より上手かも?! 属性は何となくだけどねー。私はあんまり魔力関知系は得意じゃなくってさ。訓練はサボってたからね……」


 えへへ、頭を掻きながらメルはそう言う。


「そうか。魔力関知は鍛えられるんだ? 」


「そそー。出来るよ! 私は場所関知だけは頑張って鍛えたんだけどね。ARMEDの動力源に魔力が宿ってるAT鉱石ってのが使われてるから、それを関知する事で闘いを有利に進められるようにしたいなーって思ってさ」


「なるほど……。じゃあ、俺も後で鍛えて貰おうかな」


「いいよ! 二人で頑張ろうね♪ 」


 よし。コレで俺も強くなれる……! 


「じゃあちゅーしよっか! 」


「いやいや、まだ何も出来てないから! もっと何かないのか? 」


「ぶー。とりあえずカナデは魔力を操れるみたいだからねぇ……。じゃあ組み手でもしよっか?」


「え……?! 」


「組み手だよ! カナデ知らないの……? 」


 神姫と組み手って……無理ゲーだろ。

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