6話 休息


 神姫の強襲にあった俺達だったが、隊員の連携とメルの活躍により事なきを得た。


 何故か俺にだけ知らされていなかったが、部隊は新型兵器の基幹部となる部品の輸送任務中だったらしく、俺の軽率な行動のせいで任務失敗になる所だったのである。


 そして今、俺たちは。


「カナデちゃーん。早く来ないと無くなっちゃうわよー」


「コレ甘くておいしーよー! カナデの分も私が取っておいてあるからねー」


 女子2人が手を振りながら俺に声を掛けてくる。

 先の任務が無事終わり、到着先の工業都市『デルタスミス』で休暇を楽しんでいる所だ。

 今日は、ミラが提案した『1日食べ歩きツアー』を3人で行っている具合である。

 もう時間は夕方の4時になるのに、この2人の食欲は衰えず。


『3時のおやつは、ケーキバイキングです!!』


 とのミラの一声で決まり。


『やったー!! 私フルーツいっぱいのケーキがいいー!!』


 と、メルもその小さな身体に似合わず朝から馬鹿食いしてるはずなのに、デザートは別腹とはよく言ったもので早くも4つ目のケーキに手を出している所だった。


「よく2人とも、そんなに食べれますね……見てるだけでお腹いっぱいになります……」


「何言ってるの?! 食べなきゃ損だよ!! ほら! このケーキも美味しいから食べて見て! はい、あーん!」


 メルから突然あーんされて、俺は固まってしまった。


「カナデちゃん、かっわいいーっ! 前はすぐ食べてたのに照れちゃってるのー?」


「て、照れてなんていません!」


「照れてるじゃーん。ウブなカナデちゃんも中々そそるわね」


「カナデ……私のケーキは食べてくれないの?」


 涙目になりながらそう言うメルに、申し訳なくなり思い切って食べることにした。


「あむっ。お! 美味しいなコレ!!」


「でしょーっ!! 前から気になってたんだー! スペシャルベリーベリーカスタードチーズケーキ!!」


「ベリー感の凄い見た目からは想像出来ないくらい後味はさっぱりしてて、口当たりのよさを残しつつカスタードをふんだんに使ったチーズケーキがまろやかに口の中を幸せにしてくる!! コレをその若さで理解しているとは、メルも中々やるな……」


「カナデちゃん……ちょいキモい」



 引いているミラの横で、メルはクスクスしながら俺の事を笑っているが、そんなことが気にならないくらいこのケーキは凄かったのだ。


「カナデにもこの子の凄さが分かるんだ! いやー私たち相性抜群だね!」


 胸の前で手を握りながら腕を上下に振ってテンション高くなったメルが可愛い。


 ガシャーーン!!

 

 突然、俺の後ろから影が現れたかと思うと、テーブルを蹴飛ばし長身の男が俺に話しかけてきた。


 「あれれー? これはこれは、甘い物が苦手だったはずのカナデ・アイハラじゃありませんかー? こんな所で何してるんですかー? 記憶が無くなって味覚もお留守になったんですかー?」


 誰だコイツ。


 真っ先にそう思ったものの、そいつの見た目が、頭半分スキンヘッド。もう半分が腰まで伸びる青い長髪だったこともありインパクトがあり過ぎて会話の内容が入ってこなかった。


「カイン!! あんた何してくれてんの!! 私の、私のケーキ達が!!!!」


 至福の時を過ごしていたメルが、カインと呼ばれた男に浮遊しながら接近し胸ぐらに掴みかかり怒鳴る。


「おやおや、メルティ・ノーグバインではないですかー? こんな所で何をしているんですー? 早く敵国の神姫を皆殺しにしてきてくださいよー?」


 胸ぐらを掴まれている事を気に掛ける事も無く返すカイン。

 その様な反応をすればメルがどうなるかなんて分かると思うのだが……


「はぁぁぁ?! 今休暇中なの! 見たら分かるでしょ!! いくらカインが戦闘狂だからってみんながみんなそうじゃないんだから!」


「はぁ? この時代戦いこそが全てですよー? カナデ・アイハラもそう思いますよね??」


 急に話題を俺に振ってくるが、この身体になる前の世界では平和な世の中に漬かっていた。

 だが、今のこの戦いのある世界に楽しさを見いだして来ているのも事実であった俺は、回答に困ってしまう。


「俺は……平和の為に戦っているだけだ……」


 俺がかろうじて出した答えだった。


「ふふふ。カナデ・アイハラも俺と同じ部類ですよねー? 今から戦いたかったんですが、また今度オサソイしますね? では」


ドサッ。


「痛っ!!」


 カインは、掴みかかっていたメルをその場に振り落とし、狂気染みた笑顔を残してその場を去って行った。


「痛たー。いつもなんなのよアイツは……て言うかミラは何で黙って見てるだけなのよ!!」


「だって、あの子は何考えてるか分からないし、からかっても面白くないんだもーん。放置安定よ。放置」


 憤るメルに対して、『ミラはいつもの事だから』くらいのノリで流した。


「アイツは誰なんですか? いきなり喧嘩を吹っ掛けて来たと思ったら、いきなり帰って行くし……行動がデタラメ過ぎます」


「あの子は 『カイン・ドーバンズ』 うちの艦の第2部隊隊長でカナデちゃんと1、2を争うARMEDの腕前で戦闘狂よ。あの子は敵味方関係なく闘いが好きってのが厄介な所かな。昔の事だけど、任務中に味方機を全滅させたって話もあるわね。実力を買われて今はウチの艦に乗ってるけど、やっぱり変態は嫌よね」


 変わってる奴だとは思ったが、味方殺しもしているのか……


「なんでそんな奴が所属してるんですか?」


「それは私も知らないわよー。艦長が直々にスカウトしたって話もあるけど、真相は誰も分からないみたい」


 ピピピピ。ピピピピ。


 3人の通信端末から着信音が同時に鳴る。


「次から次へとめんどくさいなー!!」


「緊急招集です。お休み中申し訳ないのですが、帰還お願いします」


「緊急招集? せっかく久しぶりのデートだったのに台無しだわー」


「仕方ありませんよ。仕事で呼び出しなんてしょっちゅうあることじゃありませんか?」


「ホント、カナデちゃん変わっちゃったなー前なら無視してデートの続きしてくれたのにね」


 俺に向かいウィンクをしてくるミラを、スルーして席を立つ。


「楽しい時間は終わりです。艦に戻りましょう」


「「はーい」」


「私は先に向かっちゃうね!」


 メルはそう言うと、装備を展開。一気に飛び立って行った。


「こういうとき自由に空飛べるのって便利だなーって思うわ」


「そうですね……平和の中で空を飛べたらどれだけ気持ちいいんでしょうね……」


飛び去るメルを見ながら、意味も無くつぶやく俺たちだった。


____________________



「先の護送任務ご苦労だった。無事品物は工場へ出荷完了した。一月もすれば新型が配備されるはずだ。よくやった。それで、急で悪いのだが次の任務だ。

 『ヴァーミル王国』から救援要請がきた。先の襲撃騒ぎもあり断りを入れたい所だが、極秘の任務中だったのを気取られない為なのと、あちらに『借り』を更に造っておこうと思う。『ヴァーミル王国』とウチは軍事面でそれなりに交易がある。ここで助けておけば後々有利な展開が期待できると上はお考えだ。

それでもって今一番近くに居るウチに声がかかった次第だ。

 休みを切り上げてしまうのはすまないが、やってくれ。」


「はぁ?! 喧嘩しかけてきた所を助けるの?! 私が必死で追い返したハエマリアンヌを助けるっていうの?!」


 メルが怒るのも分かる。

 俺自身もその身を狙われていたし、内心複雑な気持ちだ。

 しかし、あの件を艦長やヴァーミルは隠蔽しているのか?

 上に報告していれば救援要請の話は無かったかもしれない。

 艦長なりの思惑があるのだろうけど、少々疑問が残った。


「メル、カナデ。悪いが国同士の話に個人の感情は入れられないからな。

 出発は明日の早朝4時、ライアンとカインの2部隊で今回の任務に当たって貰う。


 今の戦況としては、『ヴァーミル王国』へ『ガイアクル帝国』が攻撃をしかけている所だ。

 地理的条件でヴァーミルがなんとか耐えている様だが、物量で勝る帝国が押してきている。

 正直ここでヴァーミルが落とされるのはキツい。耐久戦になるかもしれないがよろしく頼む」


「「はい!!」」


 集められたメンバーが敬礼をして答える。

 あのカインと、共同戦線か……

 不安が残りつつも、明日の準備をするため各自解散し始める。


「第1部隊は集合!! ミーティングをする」


 解散後すぐに、ライアンから集合の号令が掛かる。

 ゾロゾロとメンバーが集まりだし、中にはまだ会話をしたことの無い顔も見られた。


「集まったな。ミーティングを始める。今回の任務は単純明快。国を護り抜け。だ。

 総力戦になるだろうが俺達が行けば帝国だろうが余裕だ。

 ヴァーミル王国は豊富な弾薬や武器の準備がある。それらを所持している事を帝国様は目をつけ攻撃を始めた。


 平和的な国ではあるが武器産業は盛んだからな。資源に難がある帝国様としてはどうしても手に入れたいのだろう。

俺たちはヴァーミルからの補給がたんまりあり、技術者も多いから有利な事は変わりない。

 今不利になっているらしい原因を斥候が調査中だ。その報告が上がり次第また報告する。

 今の段階の勢力図と、カナデには地形図等を渡しておく、ヴァーミルに到着したら作戦が決定次第集合をかける。各自確認しておくように。


 そして、カインの部隊との共同戦線だが協力は期待するな。それぞれが役割をしっかり果たせば必ず勝てる。そして勝って美味い酒を飲むぞー!!」


「「おー!!」」


 決戦前の独特の空気が部屋を包んでいるのを肌で感じ、俺自身も張り切って浮ついたような気持ちになっていった。

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