第2話 銀河不動産

訳あり物件ばかり扱うことで有名な不動産屋シクロンは、3本指の爪で顔のうろこを掻きながら「上客」の登場を心待ちにしていた。


というのは超訳あり物件のとある惑星に、

あの「星ころがしの宇宙そらの不動産女王」、

イスカリテ様が興味をお示しになり、内見ならぬ軌道上から視察なさる外見に行幸なさるからである。


ほどなく左右に護衛艦を付けた流線型の円盤が「物件」の月の惑星軌道上に出現し、灰白色に光るお肌と見事な肢体をゆったりとした黒ドレスに包んで円盤に空いた穴から出てこられたのは、


二億年先の銀河にある惑星アルレアの58代女王イスカリテ様その人だった。


「久しぶりじゃの、コルレネ」とイスカリテは煙管をくわえ、侍従に火を点けさせてから文字どおり上から目線でシクロンを見下ろした。


「女王陛下、ご機嫌麗しゅう…コルレネは私の曾祖父の名前ですが」

「あっそーだっけ」

と不動産屋のやんわりとした反駁も意に介さないイスカリテは、月面展覧所の寝椅子に腰を下ろしてから

「で、この物件はどんな訳ありなのか説明なさい。瑕疵担保物件の星ばかり扱うヤミ不動産屋よ」


と吸い込んだ煙をぴゅーっ、とシクロンの顔に吹き付けた。


「物件はこれでございます」

と壁面スクリーンを透過モードにしたシクロンは、闇の中に輝く青い惑星をこの横柄な女王に見せた。


「ふうん、見栄えはいいじゃない。で、どんな瑕疵が?」

「まず、住人がまだ生存しています」

「その数は?」

「70億以上」


「まだ更地にもしてない星を売りに出すとはね…」


イスカリテは侮蔑しきった目でシクロンを見つめた。


「歴史と文明と汚染状況を説明せよ」

は…と星の記憶が保存されたクリスタルを不動産屋が差し出すと、


女王は突き出た額にそれを当て、直接頭頂葉から星まるごとの記憶を吸収したのは、地球時間でわずか3分。


「最終兵器の実験による放射能汚染と合成物質で汚れまくってんじゃん。誰も買わないわよ、こんな星」


と言って女王は不動産屋の手にクリスタルを放り投げた。


「しかし、今ご購入であれば相場よりも格安。多少人間がおりますがそこは買い手のご自由に」


「滅するなり奴隷にするなり好きにしろ、と?それは宇宙法違反」


と女王はしばらく考え込んだが、やがて星の世界のパワーバランスを思いだし、含み笑いをしてから底値の底値という金額で惑星を購入し、「ではまた」と母星に帰還した。


これでひと安心、あの種族はそろそろ千年の眠りにつく時期だから…と契約書を手にシクロンはしっぽを振った。


アルレア人は千年の活動期と千年の休眠期を繰り返して一万年生きる。


千年後、休眠カプセルから起き上がった女王は早速物件の現状を調べて


自分の読み通りに物件の住人たちが自滅してしまっているのを確認して、この星もか…と深くため息をついた。


要因は色々ある。元凶である人間が起こした最終兵器を使った戦争で住めない環境になったこと。そして人間自身が生きていない方が幸せ、と。自ら次世代を育てることを放棄した諦め。


確か地球、といったっけね。千年経てば汚染も自浄されてるし、海洋生物(地球のイルカにあたる)から進化したアルレア人にとって、


この星の海「だけ」が魅力的だったんだもん。


さて、まず別荘と、プライベートビーチ化の準備しよーっと!







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