第40話 えっ? この猫女が?!


 ロリババアこと蘇我立夏に四回ほどエナジードレインを食らい、狐ババアこと舞姫に狐火で何度も焼かれ、サイボーグババアことジオールに重火器を何度もたたき込まれ、三人をババア呼ばわりした事で逆鱗に触れてしまったが故に無抵抗主義を貫いた俺は瀕死の状態になった。その後、全快の薬というチートアイテムをぶち込まれて、HP1からHPが全快の状態になったところでようやく解放された。

 もうあの三人をババアと呼ぶのは止めておこう。命がいくらあっても足りなそうだし。

 今度からは心を込めて『お姉さん』とでも呼ぼう……と思ったが、いつも通りでいいか。

 俺はそんな事を考えながら部屋に戻って睡眠をむさぼろうとするも、


「おい、起きろよ、クソガキが!!!」


 午前八時にドンゴにたたき起こされたのだが、目を開けた時に見えた世界は、俺の部屋ではなかった。


「おいいいいいいいいいいいいいい!! 俺が寝てる間に転送なんてするなよ!」


「気持ちよさそうに寝ていたからよぉ、起こす気にならなくてってな、がはははっ!!」


 ドンゴは悪びれる様子もなく、快活に笑っていたが、明らかに故意だ。起こそうなんてしていないに決まっている。


「転送された後だし、文句を言っても始まらんし。で、この異世界で俺はどうすればいいんだ?」


 完遂の弥勒だっけか?

 そいつらに反撃するために打って出るとか言っていたが、俺はここでどのようなミッションをこなすべきなのかを知る必要性を感じて、そう訊ねた。


「ここはとある惑星だ。人類に似たような奴らが生活している……いや、生活じゃねえな、生かされているってところか」


「どういう意味だ?」


「ここの惑星の住人は素材なんだよ。色々な惑星にとあるものを輸出しているんだが、それを作り出すための素材ってところだな」


「ただ工場とかで働いているとかではなくて?」


「工場で働いているんじゃねぇんだよ。工場の中で装置の一部になっているのさ。この惑星の絶対神でもある人工知能が管理する、巨大な血液工場の中でよ」


 また人工知能か。

 どれだけ人工知能を活用しているというのだろうか、完遂の弥勒とやらは。

 とはいえ、その人工知能が管理する血液工場ってなんだ?


「まだまだおつむがお子ちゃまのへたれ野郎には分からねぇだろうが、乳牛から乳を搾るみたいに、ここの惑星の全ての住人から生かさず殺さずレベルで血液を搾り取った後、輸出先の生命体に合うように血液を加工して輸出しているのさ。それで莫大な利益を得ている。で、稼いだ金をこの宇宙を動かすための資金として活用しているんだよ、奴らは」


「いまいちピンとこないんだが? 乳牛から乳を搾るって事は、地球で売られている牛乳みたいに、ここの住人のから血を抜き取り、牛乳みたいに販売しいてるという事なのか?」


「そんなところだなぁ。違うのは輸出している血液の価値だ。お前の住む地球では、昔はコショウが金と等価だった頃があったはずだが、ここの血液一リットルは金十グラムと等価だ。それだけのものを大量生産しているのさ」


 ここの惑星の総人口は分からないが、一日辺り、相当な量の血液を搾り取っているのは想像には難くない。人の命をもてあそぶというべきか、人の命を家畜程度の価値にしか捉えていないのだろうが、そういった倫理的に許されるものなのだろうか。いや、許されはしないからこそ、叩きつぶしたいのだろう。


「……なるほど。つまり、俺はその人工知能をぶっ潰せばいいのか?」


「この惑星の人工知能はもちろん潰す。だが、潰した後、新たな王を据える必要があるんだよ。じゃねえと、この惑星に住んでいる奴らは路頭に迷った末に野垂れ死ぬだけだ。仕事も文化も判断力……思考というものがないからな、素材として扱われているここの住人は。だからよ、血液を売るのを仕事として残しつつ、教育を施し、人の統べる国家を作り、人による支配を復活させるのが目的である。ま、それが今回のミッションなんだがな」


 ドンゴの言いたい事はそれなりに理解できた。

 素材としか見られていない以上、教育などは施されていないのだろう。そんな人たちを解放したとしても、知恵も知識も文化も何もない人たちが自らの力で生きていく事ができない可能性が高い、という事を言いたいに違いない。この惑星の人たちが自らの力で生きていくために導く必要性があるという事なのだろう。そんな事ができるような人物がいるのだろうか?

 もしかして、俺か?

 俺なのか?!

 俺が王になるのか!


「で、で、で、でっ! 新しい王っていうのは、誰がなるんだ?!」


 俺は期待を膨らませて、期待を込めて言う。


「そこにいるじゃねえか」


 ドンゴは俺ではなく、別の方角を視線で素っ気なく指し示した。


「そこ?」


 俺はドンゴの視線の先を辿る。

 いつからいたのかは分からないが、そこには見覚えがある高貴な雰囲気をまとった猫耳の女がいた。


「余は皇帝クラディア十五世にゃ。この惑星の新たなる支配者になる者にゃ」


 俺の視線に気づいた皇帝クラディア十五世は優美に笑った。


「えっ? この猫女が?!」 


 俺じゃなくて、がっかりだ……。

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