第36話 ゴミみたいな邪神との戦いよりも楽しいひとときだったぜ!



 ソウルネーム『Rセブンティーン』は、異世界Third Earthで出会ったいけ好かない奴だ。

 流れていた電波ソングの作詞した人物である上、常に上から目線の中世貴族のような男であったはずだ。

 その男がなんで、この世界にいる?


「正義に目覚めた僕が召喚獣ではないに召喚されるとは、なんという巡り合わせなんだろう! しかも、闇落ちした召喚獣をこらしめてくれという話ではないか。僕は運命を感じたね」


 召喚だと?

 召喚士がRセブンティーンを召喚したというのか?

 この地球に召喚士なんていたのか?

 どういう事なんだ、これは?


「こんな事もあろうかと……あら? 今夜はお楽しみでしたか。それでは、終わるまでリビングで待っていますね」


 部屋のドアが開いたと思ったら、ジオールがひょこりと顔を覗かせてくるも、俺と志織とを交互に見て、含み笑いをしつつ、全て分かっていますよという表情をして、顔を即座に引っ込めて、ドアを閉めていた。


「……」


 俺はジオールが閉めたドアをしばらく見つめた後、志織に顔を向ける。

 志織はジオールに見られた事で気まずそうな目をして赤面していて、俺の視線を感じ取ると、愛想笑いとも、引きつり笑いとも取れる微妙な笑みを返してきた。


「行かないといけないんでしょ?」


 俺が何も言えないでいると、志織の方からそんな言葉を投げかけてきた。


「……たぶんな」


 あの様子だと、召喚士パ・オみたいに暴れるために来たようではないようだし、なんだか俺に用があるような雰囲気さえしている。

 というか、俺が闇落ち?

 誰がそんな事を言っていたんだ。


「私はまたの機会でいいから。今は、君がやるべき事をやらないと」


 気負っていたものを下ろしたのか、志織ははぁっと深く息を吐いた。


「心残りだが、ちゃっちゃっと片づけてくるか」


 俺は立ち上がり、ドアの方へと向かうが、足取りはいつになく重い。

 キスだけで有耶無耶にしそうとしたのを邪魔をされたからなのか、後ろめたさが首をもたげてきてしまい、喉に何かがつっかえたような気分になっていて、すっきりできないでいる。

 志織はあの怪我の要因が俺にあるとは知らないのだから……。


「続きはまた明日ね」


「おう」


 そんな言葉を背中に向けられ、俺は振り返りそうになったが、志織の表情が真正面から見られないような気がして、手だけを振って、俺の部屋を出た。

 明日、この気持ちに決着が付くのならば、それでいいか。



* * *



「お早いですね。外気に触れた瞬間、出てしまったんですか?」


「で、こんなこともあろうかと何を用意していたんだ?」


 ジオールの台詞を無視して、どうすべきかの答えを俺は求めた。


「あら? 成長しましたね」


 ジオールはさも驚いたとばかりに目を大きく見開いた。


「スルースキルというものを身に着けつつあるということだ」


「……わかりました。こんなこともあろうかと、地球に来た敵を強制的に別の異世界へと転移させるシステムを構築しておきました。このシステムを使い、敵とあなたとを別の世界へと送り出し、その異世界で決着をつけてもらうという流れです。その異世界で活動できるのは三分ですので、その間に倒すか、倒されるかしてください」


「なるほど、そういったシステムか。なら、俺の町とかが戦場にならないからやりやすいし、三分以内で倒せば問題ないってところか」


「はい」


「ま、俺が倒されるはずはないから当然のように凱旋するかな」


 その時、リビングルームのドアが開いて、金色の西洋甲冑でその身を包んだ、現代日本には似つかわしくないリヒテンが毅然とした様子で入ってきた。


「矢継ぎ早の攻勢、我々の先手を打とうとしているのか、あやつらは」


「様子見でしょう。その気になれば、私もあなたも勝てませんし、かませ犬でもぶつけて、見極めたいのではないでしょうか?」


 ジオールとリヒテンの会話を聞いて、俺は前に聞いていた話を思い出す。

 リヒテン、ジオールなどでは勝てない相手がいるが、俺ならば勝利する可能性があるという事を。


「なんとかの弥勒っていう奴が活発に動き始めたってところなのか?」


「そうでしょうね」


 ジオールが素っ気なく返す。


「少年よ、これはあくまでも前哨戦といったところである。捨て駒をぶつけてきているに過ぎない。だが、油断してはならぬ。どこぞで観戦しているかもしれぬからな」


 リヒテンは腕を組んで、しばらく熟考の末、そんなことを語ったが、捨て駒という言葉がどうも気にかかる。


「捨て駒ってなんだよ。自分たちが矢面に立つのが嫌なのか、そいつらは?」


「完遂の弥勒を除いては臆病者の集まりです。自分たちはあまり表には出ず、いいように操れる者をいいように利用するのが彼らの手段です。私はあまり好きではありませんが。弥勒は捨て駒であれ何であれ、誰であろうとも分け隔てなく接する紳士的な男ですね。あの中ではリーダーのような存在ですが、考えでは相容れないものがあるので、私は生理的にダメですが」


 性格的な対立があったからこそ、元リーダーがいなくなった後、二派に分裂してしまったというところなのか。

 まとめ役がいなくなってしまえば、分裂する。

 確かによくあることだ。


「……そのあたりの話は、近日中に弥勒が現れてからがいいでしょうし、これ以上、巨大ロボを町中にいさせ続けるのは何かと問題がありますし、そろそろ転送させますかね」


「現れる?」


「律儀なあやつの事だ。仕掛けてきた以上は、少年に挨拶をしに来るであろう。そういう意味では、あやつは礼儀正しい」


「……はぁ」


 名刺でも持ってくるのかと想像したが、いまいちその姿が思い描けないので、弥勒とやらの姿が思い描けない。想像するよりも、近いうちに来るであろう本人と話すのが一番に違いない。


「システム起動。転送開始します」


 どこかにボタンなどがあるのかと思って周囲をきょろきょろと見回すも何もなかった。ジオールの音声か何かに反応するようになっているシステムなのかもしれない。

 正常にシステムが稼働したのか、俺は次第に光の粒子に囲まれていった。




                * * *




 異世界というよりも、戦隊ものなどの後半戦において、主人公たちと悪役とが対決するだだっ広い荒地のような場所であった。

 ようは、火薬などを使えるような何もない私有地といったところだ。町中でドンパチするよりも、こういった場所の方が好きなだけ本気を出せる分、気楽だ。

 そんな場所に、超絶神器ナルイハーVという新型らしき巨大ロボがそびえたつビルのように俺の前に立ちはだかっていた。

 以前見たロボよりも、戦闘力が高そうではあっただが、防御力無視の即死光線だとか、俺が行った異世界に使用された生物のみを殺戮する化学兵器を使ってこない限りは俺の勝利は揺るがないだろう。


「聞いたよ。闇落ちしたんだってね」


 ロボに設置されているスピーカーからなのか、Rセブンティーンの声が響いた。

 異世界に転送されたというのに平静を保っているのは意外ではあった。


「いいや。俺は俺のままで、闇落ちなんてしてない。誰かにそそのかされたのかもしれないが、またボコボコにしてやるよ」


「召喚獣ではないのに召喚されたのは幸運であった。貴様には、礼を言わなければならないと思っていたからね」


「はい?」


 なぜ、俺に礼を言うんだ?

 トラウマになるくらいのダメージを与えていたはずだが。


「正義に目覚めてしまったんだよ。お遊びではなく、正義を執行することに喜びを見出してしまったのだよ、わかるかい?」


 陶酔したかのような言動に俺は背筋が寒くなった。

 前にサードアースに行った時と同じように思い込みの強さがひしひしと感じられた。

 また力で叩き潰すしかないようだ。


「僕たちにとっては召喚された以上、光だ闇だなんてどっちでもいいんだ。召喚獣の君には悪いけど、正義を執行させてもらうよ! 貴族としての誇りにかけて、最終奥義の一発勝負で押し通すよ!」


 ナルイハーVがどこからともなく、長身の剣を抜き放ち、上段に構えた。

 地面を踏み込み、空へと飛ぶなり、


「我ら貴族戦隊ソウルジェネラーズは、名誉、財力、貴族の名にかけて悪を倒す! 必殺! 正義執行斬!」


「俗物的なものばかりに名をかけてどうする!」


 跳び上がったナルイハーVを目で追いながら、相手の攻撃を受け止める態勢を整える。

 腰を沈め、右手を空へと差し出す。

 ナルイハーVは最終奥義の一発勝負という真っ向勝負を挑んできているのだから、それに応えなければ男が廃るというものだ。

 上空から一気に落下してきて、俺に剣をたたきつける算段なのだろう。算段というか、それがあいつらの必殺技なのは想像に難くない。

 そんなわかりやすい攻撃であるのならば、実に潔い。

 ならば、その潔さに俺も答えなければなるまい。

 本気で受け止めてやらねば、力を出し切ろうとしているRセブンティーン達に失礼だ。


「我ら貴族戦隊ソウルジェネラーズの名をその身体に刻め!」


 予想通り、俺に狙いを定めて、ナルイハーVが落下してくる。


「見直したぜ、お前らをよ!」


 俺が間合いに入るなり、ナルイハーVは長剣を振り下ろし、俺を粉砕しようとしてくる。

 剣の軌道を見定め、右手で白刃を見事受け止める。

 ずん、と押し込まれるような圧力が取った時にかかり、地面が若干沈むも、俺はその程度の力に負けるような柔な男ではない。押し潰されることなく、片手だけで受け止めきった。

 叩き付けられた長剣を受け止めきった時、モニターか何かで見ているであろうRセブンティーンに勝利を確信した笑みを見せた。

 受け止めた剣に力を込めると、亀裂が走り、ガラスであるかのように砕け散った。


「さて、俺のターンだ」


 怯んだのか、相手の動きが止まった。

 そこを狙っていたわけではないが、跳躍してナルイハーVの懐に飛び込み、若干手加減した拳をその巨体へと叩き込んだ。

 俺の攻撃に耐えきれるだけの装甲では当然なかったようで、ナルイハーVの装甲が凹んだ時には、返り血が飛び散るように内部にあった金属片をぶちまけ出した。そして、崩壊が進んで身体を維持できなくなると、ナルイハーVは瓦解しながら倒れていった。


「Rセブンティーン、この前の一件は水に流す! 力の差は歴然としていたが、真剣勝負を挑んできたその勇気に敬意を表す。ゴミみたいな邪神との戦いよりも楽しいひとときだったぜ!」



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