第3話 というか、俺のヒロインはいつ登場するんだ?

【名前】本城庄一郎(ほんじょうそういちろう)

【年齢】16歳

【種族】ヒューマン

【職業】霞ヶ丘かすみがおか南高校に通う高校生

【得意技】不明

【得意な属性】不明

【召喚獣レベル】計測不可能

【召喚獣ランキング】不動の1位

【累計ポイント】15億6200万0555ポイント

【現在所得ポイント】4000万ポイント



 俺はスマホで自分のステータスを確認して、なんとも言えない気持ちになった。

 とりあえず、スマホを学生服の上着のポケットにしまい込んで、校舎裏にある俺の特等席でごろんと横になった。

 ここは日陰な上に、昼休みだと、滅多に人が来ないからのんびりできて好きだ。


「力の調整をどうにかしないとな」


 累計ポイントはこれまでに稼いだポイントの合計なのだが、ポイントのほとんどを時の種に費やしてしまっているような気がする。

 氷雪魔神アルファミルを倒した時のように、力を出しすぎてしまって、世界そのものを壊してしまった事が何回かあって、そのたびに時の種を使っていたのだから仕方がなかった。


 転送された異世界で使用できる通貨がポイントで交換できるのだが、実際問題として、猿の手以外の交換アイテムは召還時以外では使えず、猿の手はリスクがあるために召還された時以外での使用が例外として認められている。

 とりあえず交換してみた猿の手が1個あるが、使い道が思い浮かばず、もてあましているのが現実だ。

 話によれば、猿の手目的の召喚獣もいるらしいのだが、どう使う予定なのかは想像も付かない。


「これは、聞き覚えのあるホイールのラチェット音……」


 高いロードレース用のホイールは独自の音がする。

 メーカーに特徴があって、その音がステータスになるのだとか、ならないのだとか。


「やっぱり、レーパン変態女か」


 俺の特等席に、ロードを引きながらずかずかと侵入してきている女が一人。

 東海林志織は、いつものようにレースジャージとレーサーパンツという格好で、良くも悪くも自転車乗りだ。

 生粋のレース思考の人間なのだから、そういう格好は普通なのかもしれないが、校内を歩くのは風紀的にいかがなものか。


「またここにいる。不燃物は好きね、ここが」


「失礼な。ここは俺の特等席なんだ。お前こそ、どうしてこんな場所に? 不法侵入だろ」


「昼の練習が終わったからここに涼みに来たのよ」


 事もあろうか、志織は校舎にロードバイクを立てかけると、俺の隣に腰を下ろした。

 どういう風の吹き回しなんだろうか。


「プロテインでも飲む?」


「は? 何をいきなり」


「また不完全燃焼ですみたいな顔をしているから、脳みそを筋肉にしちゃえばいいのよ。そうしたら、変な事を考えないような頭になるわよ」


「俺に馬鹿になれって事か?」


「何を言っているの? 最初から馬鹿でしょ?」


 もしかして、俺を気遣っているのか、この女は。

 そんな気が微かにしたような気がして、志織の事をまじまじと見つめる。


「私、何か変な事、言ってる?」


「いや、格好からして変だから、変な事を言っていても気にならないはずなんだが……」


「……この格好が変って。ロード乗りの普通よ?」


「レーサーパンツの下には何もはいてないだろ? 水着に近いような格好で、よく校内を歩き回れるなと」


「私の事、どう見ているワケ?」


 志織が俺の事をさげすむかのような目で見つつも、胸と下半身を手で隠すような仕草を取った。


「普段通りだ」


 志織がどういう了見で俺に話しかけてきたのかは分からなかった。

 昨日の反省もかねて一人になりたかったので、他の静かな場所に行こうかと起き上がった。


「ご飯も食べたし、俺は行くわ。ここで俺の代わりにほてった身体をゆっくり休めてくれ」


「何その、変な含みを持たせたような言い方。セクハラ? セクハラなの?」


「いやいや、言葉通りの意味だ。練習で疲れているんだろ?」


 このまま話していると、険悪な雰囲気になりそうだったので、俺は小走りで特等席から離れようとしたのだが……。


 不意に俺の周りに光の柱が立ち上る。


『今ここで召喚かよ!』


 そう叫びたかったが、俺を睨み付けている志織の存在があったため、その叫びをぐっとこらえる。

 もうなるようになれ、と思いつつ、観念して目を閉じた。


 今度こそ、美少女が俺の事を召喚していますように。

 絶対に美少女が召喚していますように。

 そんな事を切に願いつつ、召喚に身を委ねたのであった。


 ふわっとした転送感。

 それにより、どこかの異世界への転送が完了したのが分かった。


「おお! 召喚獣よ! 待ちくたびれたぞ!」


 だが、そんな俺を迎入れたのは、しわがれたじいさんの声だった。


「……」


 恐る恐る目を開ける。

 白髪に、白く長いあごひげを蓄えた、黒いローブを着たじいさんが俺の目の前にいた。


「というか、俺のヒロインはいつ登場するんだ?」


 失望感からか、俺はそう呟いていた。


「我が求めに応えし召喚獣よ! 今すぐ我の使役となりて、かのにっくき魔王ンガルディールを討伐するのじゃ! きゃつめはこの世界リリングルグンルそのものを破壊しようとしておる! 早々にきゃつめの計画を阻止せねば大変な事になってしまうのじゃ! さあ、我と契約して、きゃつに挑むのじゃ、さあ!」


 じいさんが一方的にまくし立てるが、俺はそれどころではなかった。


「いや、美少女の召喚士と契約させてくれ」


 結局、そのじいさんとは契約をせずに、魔王ンガルディールとかいう雑魚を半日程度で探し当て、軽く討伐して終わらせた。


 俺を召喚してくれる絶世の美少女はいつ登場するのだろうか?

 ずっと待ち続けているのに、どうしてそうならないのか。

 アプリ『メソポタミア』の陰謀なのだろうか……。


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