第2話 ドスケベマン(2)

「さあ、その紙袋を渡してもらいましょうカ」

銃を突き付けながらドスケベアーミーは厭らしい笑みを浮かべた。

ウィップマニアン。この近隣の村の管理に最近訪れたドスケベアーミーだ。

「今ならアナタは元の生活に戻れる。ワタシはアーマード倫理観様に手柄を立てられる。お互いにWIN-WINの関係になれますネ」

突き付けられた銃のひやりとした感覚が体を凍らせる。

ちらりと眼で左右を見るがウィップマニアンの配下がいつの間にか自分を取り囲んで銃を構えていた。

タカシはソフマップと印字された紙袋の持ち手を握りしめる。

ここで逃げようと体を動かせばその場でハチの巣になることは間違いない。

この紙袋を渡せば罰はあっても命は助かるだろう。しかし。


「……これは、爺さんの形見――ッ!」


破裂音と衝撃、そして火薬のにおい。

後ろに突き飛ばされたような感覚から、一歩遅れて肩に灼熱にも似た痛みが襲った。

撃たれたのだと気付いたのはそのあとだった。

「もう一度言いますヨ、そのドスケベをこちらに渡せ」

眉一つ動かさずにドスケベアーミーはタカシに告げる。

今の発砲は警告であり、次は脅しではないことが熱を持った痛みがタカシに伝える。


タカシの脳裏に、在りし日の祖父の姿がよぎった。

「ワシがタマ姉に出会うためにこの作品はあったと思う」

そうやって熱っぽく、どこか少年のようにタマ姉への愛を語る祖父の姿。

それは何物にも代えがたい宝物を抱きしめているかのようだった。

祖父は何もしていない。村の人々を笑顔にしていた。

それは確かに乾ききった村の人々の心を潤していた。

男はそれを見て上気した顔で笑い、女はうらやむような夢見るような目でその華美な衣装をまとう女性の絵を見つめた。


「……だ」

「はい?」

「いやだ」

肩を押さえながらも、こちらを睨み付けたタカシをウィップマニアンは心底面白いものを見るかのように見た。

「アハハハハハハハハ!これはこれはご冗談を」

「これは渡さない」

「アハハハ!仕方ないですネエ!」

周りを取り囲むアーミーたちが一斉に銃を構えた。

自分に襲い掛かる鉛玉の感触を想像して、タカシはぐっと目をつぶった。

せめて祖父の形見のこの紙袋の中身が壊れないようにと必死に抱え込むように体に力を入れ。


その時―――


そう、それは最初はただの風だった。

兵士の一人が突如舞い上がった砂に一瞬下を向き、また顔をあげたその瞬間。


「何?」


そう、顔をあげた瞬間、大地が隆起して眼前に迫っていた。

いや、違う。その兵士が地に倒れていたのだ。

声を出そうと息を吸った瞬間、口の中に鉄の味が広がった。

何だこれは。

なんだ、これは。

かろうじて隣にいたはずの仲間のほうを見ると、そこには。


「何ダ!!」


唐突に部下を襲った異変にウィップマニアンが声を荒げる。

周りを囲んでいたはずの部下は全て倒れ、そこに立っていたのは一人の男だった。

「貴様…一体…」

男は何が起きたかわからず呆然としているタカシに全裸グラビアイラストが印刷されたタオルをそっと渡した。

「あとは、俺に任せろ」

「あなたは……?」

「俺は、ドスケベマン」


そう、それはドスケベマンであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る