第30話 行ってらっしゃい!

朝がくる。

鳥が鳴いて、清々しい朝を歓迎する。

一方園長には清々しい気分なんてまるで無く、ぼんやり椅子に座って日記を書く手を止めていた。

目には隈が出来ていて、とても眠そうであったが寝付けないでいた。ミライさんを見送るために、寝坊しないようにずっと起きていたのだ。朝になったとはいえまだ薄暗い町、園長は少し出てみることにした。

扉を開ける。

そしてそこにはサーバルがいた。


「あ、えと、おはよう園長」


「どうしたの?こんなところで…」


「園長もすごい眠そうで辛そうだよ?大丈夫?」


「……うん。大丈夫」


「そっか、ちょっと話そうよ」


公園にあるベンチに二人で座る。

鳥は鳴くが声はせず、そこには二人の影以外は存在しなかった。


「あのね、ミライさんが帰ってくるって分かってるけど、なんだかまだ悲しくて…」


「……そっか」


今日まで笑顔でいたサーバルの気持ちを初めて知った園長。

決して寂しくなかったことはなく、静かにそれを園長に打ち明けていた。


「やっぱり、笑顔で見送った方がいいよね?だから、頑張ったんだけど…っ」


サーバルの目から涙が溢れ落ちようとしたその時、園長の手がサーバルの目の縁を拭った。そして、笑顔を作って話す。


「大丈夫だよ、サーバル。笑顔でも泣き顔でも、なんだっていい。君が来てくれる。それだけでミライさんは嬉しいはずだよ。だからさ、君のありのままの顔を見せてあげて」


「……今の園長が言っても説得力ないよ」


「………気づかれちゃったか、うん。私も寂しいし、悲しいよ」


「だったら」


サーバルは園長の膝に座り、園長の体に顔を埋めた。


「一緒に泣こう?」


「…私は、君たちの泣き顔を見たくはなかった。けど、これで泣いたら大丈夫かな?」


「お互い顔が見えないもんね、そうだ!形から入れって言うんだから、笑い声を出しながらにしようよ!」


「ふふっ、なにそれ」


「ほらほら、いっくよー!」


あははは!

明るくなってきた公園に黄色い笑い声が響く。園長はサーバルを抱き締め、サーバルは飛び込むように顔を押し付けて、笑い声をあげる。

……これじゃあ泣けないじゃないか。

園長の心からは悲しみは消え、本当の意味で笑う。サーバルも顔を上げて笑い出す。

泣くつもりだったのに笑い始めて、おかしくなった二人はもっと笑う。

顔を見合わせて、笑顔を見て、いつまでも…


「あ、もうそろそろ時間だね、じゃあ行こう!」


「うん!ミライさんに大きな声で言ってやろう!」


うんっ!

頷いたサーバルは園長と共に公園を後にする。もうその顔に泣き顔は無かった。




駅に辿り着く。

そこにはもうみんなは揃っていた。

どうやらお話をしていたようだ。


「あ、サーバルさん!園長さん!おはようございます!」


「おはよう!みんな!」


「おはよう!」


「サーバルさん、昨日の遊園地は本当にとっても楽しかったです!ありがとうございます!」


「お礼なんていいよ!むしろ私が言うべきだよ。ミライさんやみんなと遊びたくて、突然呼んで、それでも来てくれて…」


サーバルはとびっきりの笑顔を見せて大きな声を出した。


「ありがとう!」


みんなは笑顔でそのお礼を受け止めた。

そして、別れの時は迫った。

駅のホームでサーバル達は横に並んでミライさんをジッと見た。そして、みんなで大声を出した


行ってらっしゃい!!!


はい、行って来ます!


言葉は交わされ、電車が来て、走って行った。サーバル達は手を振り続けた。その姿が見えなくなるまで

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