第14話 帽子の完成

「私の羽根が欲しい…ですか?」


「そう!ガイドさんにプレゼントしたくて…、ダメかな?」


「……難しいですね。知っての通りこの羽根は丹念に手入れしてきた大切な羽根です。」


「一枚取ればそれだけでバランスが崩れて美しさが掠れてしまったり…危険があるのです。」


クジャクはむむ、と唸りながらそう言った。


「そうだよね、ごめんね。緑の羽根は別のどこかで買う…」


「しかし、ガイドさんには恩があります。もちろん貴方達にも。」


クジャクは笑顔になり、そして丁寧に、丁寧に、……一枚の羽根を取った。


「クジャク…!」


「ふふっ、大事にしてくださいね。」


そしてクジャクは立ち上がり、歩いて行った。その後ろ姿には緑の鮮やかな大きい羽があり、その形は左右対称であった。クジャクは美しさを保つ事に成功したのである。


「クジャク!ありがとう!」


「それはこちらの台詞ですよ。」


クジャクは振り向かずに歩きながら、一言。


「あの時…私たちを助けてくれてありがとうございます。貴方達がいなければ、きっとここにパークは存在しなかった。」


そして、公園の草原を駆け巡る子供達、そしてフレンズ達が視界に入る。

サーバルは慌てて立ち上がる。視点を高くしてもクジャクの姿は見えず、通り過ぎた後、そこにあったのはただ彼方まで続く緑の草木であった。


「クジャク…」


「サーバル、この好意は素直に受け取りましょ?」


「うん…うん…。でも、私たちが守ったわけじゃないよ。」


「そんな事はないさ。」


「え!?」


その声にサーバル達は一斉に振り返る。

そこに居たのは可憐で、透き抜ける純白の姿をしたオイナリサマと、カメラを下げている園長がいた。


「園長…!?それにオイナリサマ!どうしてここに…」


「サーバル、それにみんな。あの時このパークを守ったのは間違いなく君達だよ。」


真っ直ぐ。その目は真っ直ぐとサーバル達に向けられている。様々な感情が伝わる。

感謝、愛情、歓喜、尊敬、プラスの感情ばかりのその眼差しに、彼女達は気を良くした。


「…みんなが居なかったら、きっとこんな風に笑顔になれる事なんてなかった。」


園長は俯く。

サバンナの熱い陽射しから身を守る為の帽子が、園長の顔を隠した。


「園長…」


「だから、…もっと笑顔になろっか!!」


園長は顔を上げて口を大きて開けて笑いだした。


「さあ!プレゼントの帽子は完成!ミライさんに、渡そっか。」


「うん!行こっ!みんな!」


「そうだね!それじゃあ、駆けっこにしよう!」


「え〜!またー?」


「いや?」


「ううん!いいよ!負けないんだから!」


こうしてまた競争をする事になったサーバルとルル、しかし今回は…


「セーバルもやる…!がんばる!」


とてもやる気に溢れたセーバルに!


「そうね、サーバルを負けさせる事に全力を尽くすわ。」


「どうしてカラカルはいっつもそうなの!?」


「決まってるじゃない。あなたの困った顔が好きだからよ」


「悪趣味!」


サーバルの悔しがる顔、泣き顔、様々な愛くるしい顔を見る為に競争に参加してサーバルに勝とうとしているカラカル!


「私も、負けてられませんわ!」


そして、同じくやる気に満ち溢れたシロサイ!


「その鎧じゃあすぐに疲れるんじゃない?」


ギンギツネがそんな事を聞くとシロサイは


「ご安心を、例え鎧を着込んで居ても、長年の鍛錬のおかげで十分走れますわ!」


自信満々にそう答える!


「そうなの。じゃ、私は遠慮…って、またジーって見ないでよ。仕方ないわね…あまりこういうのは性に合わないのだけど。」


はぁ、とため息をついたギンギツネにオイナリサマからの声援が届く!


「頑張ってくださいね、ギンギツネ。」


「!!、は、はい!」


そしてギンギツネは途端にやる気になった!


「ふふっ、貴方達が地上を走り回っている間私は空を直線で飛ぶことができる。一位は私のものね。」


「そう簡単にはいかないよ!」


トキも一位になったという理由で歌を披露したいがため、この競争の優勝を狙いに行く!


そう、今回の競争は全員が参加したのだった!


「良いものです。あの娘達みんなが笑顔になって一緒に遊んでる。やっぱり、こんな光景がある世界が一番ですよ。」


園長は目を細めてその光景を眺めながら、呟いた。

するとオイナリサマが園長の方を向き、園長もまたオイナリサマの方を向いて話し始めた。


「そうですね、園長さん。これこそがパークなんです。自由に駆け巡り、友と笑いあえるそんな世界。心地いいですね。」


「そうだね。ところで封印は問題ないかい?」


「今のところは、ですね。相手はあのセルリウム。何が起こるか分かりませんからね、警戒は最大限にしています。」


「大丈夫?疲れてない?」


「少し疲れはありますが、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます、園長さん」


「少しでもあるのはダメだよ。えぇっと…頭を撫でたら良いんだっけ?はい。」


オイナリサマの頭の上に手が被さり、動き始める。

オイナリサマはとても心地良さそうにして、つい園長に甘え始めた。


「園長さん、もっと撫でてくれませんか…?」


「はいはい。」


「っ〜〜〜〜〜!!!」


声にならない叫びをあげ、うっとりとした顔つきになるオイナリサマ。

どうやら園長は動物にとても気に入られ、また、とても甘えさせるのが上手なようだった。


「さてっと…それじゃあサーバル達にゴールの場所を…」


「あっ」


そして、気づけば既にサーバル達は居なくなってしまっていた。

折角の準備が台無しになるといけないので園長はオイナリサマの力を借りて全力で追いかけた。

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