第31話 シロ「魔法銃がイベントを呼びやがった」



「おい、お前。その武器をよこせ」


 「ふんっ!」と鼻息荒く言うのは、この世界では一般的な金髪を持つ男の子。あとその取り巻き二人。

 お貴族様である。どの程度の貴族様かは知らないけど、クロの持つ銃がお気に召したらしい。


「それ銃ってやつだろ! 平民風情が持つようなものではない、俺のような強者が持つものだ!!」

「あー、何をもって強者なんすかね?」

「見てわからんのか平民が! 俺はこの国を守る騎士の家の子!! 将来この国を守るこの俺が持つに相応しい武器を、平民のお前が持っていても意味が無いだろう。それは俺のものだ、よこせ」

「あー、どうぞ」


 「はい」と銃を渡すクロに、トマが「クロ!?」と叫んだ。大切にしている武器を簡単に渡すと思っていなかったらしい。私もクロの考えがわからず首を傾げるが、まぁ元は貰い物だし。と様子を伺うことにした。

 厄介事は勘弁してほしい、ついでに言うとヤマトノ国の騎士は一代限りの貴族です。君の将来は何も約束されていないぞ。


 金髪のお貴族様は「話の分かる平民だな!! 褒めてやる!!」と言って、銃を見様見真似で構えた。

 氷に向かって引き金を引くが、無反応。

 「なんだ!?」と言って銃口を覗き込もうとする貴族の男の子に「危ないっすよ」とクロが声をかけた瞬間、パンッという発砲音と共に、男の子の頭がぶっとんだ。


 バッタン!! と勢いよく倒れるお貴族様。


 「トム様!?」と取り巻きの男の子二人が慌てて駆け寄った。流石の私達もやべぇと思い駆け寄れば、白目を向いているおトム様。無傷のようだが、気を失っていた。

 発砲音がした理由は不明なんだけど、怪我がないようで何よりだ。私達のせいにされたらたまったもんじゃない。自業自得だもの、何で銃口を覗くというアホしでかすのか。自分トムが悪いだろソレ。


 ギルド職員のお姉さんも慌てて駆け寄ってくるが、気を失っているだけだとわかり溜息を吐いた。

 「この子を医務室に運ぶわ」とおトム様をお姫様抱っこ。

 あぁ、可愛らしく運ばれてゆくおトム様……大丈夫、私はネタにしないから、脅したりしないからね! 多分!!

 取り巻きの男の子二人も「トム様!!」と慌ててついて行いった。



 トム様、これで大人しくなればいいな。無理か。



 おトム様を見送っていた私達をよそに、銃を拾ったビビアン様は「へぇ」と面白そうに眺める。 


「銃が暴発したと思ったけれど、これは魔法銃ね。普通暴発なんてしないだから、銃口を覗き込む時に魔力を注いでしまったんでしょ。使い方を知らないからこういうことになるのよ」


 「今度は誰にも渡しちゃ駄目よ」といって、ビビアン様は銃をクロに返した。渡す時に胸を強調していたビビアン様だったが、クロは「ありがとうございまーす」とお礼を言い銃を背負い直す。

 ビビアン様の胸を見て頬を赤くする。というド定番をやらかさない、定番の斜め上を行くおクロ様。こいつの好み、確かぺったんこだっけ? あ、違う? なんだっけ、興味ないから聞いた事なかったな。


 クロの表情に、つまらなそうに口をへの字にしたビビアン様は「私の胸に無反応なんて。面白い子ねぇ」と言っている。やっぱりそのお胸を武器にしていたんですね、私もおおきくなったらそれなりにあるもん。

 あるって言ってんだろ!! 着物時は男装してたから壁だったけどよぉ!!



 いまだ氷の柱に苦戦している子ども達と、氷を破壊した私達をみくらべてビビアン様は微笑んだ。


「私の氷を壊す子がいるとは思ってもなかったわ。僕、名前は?」


 しゃがみクロに問いかけるビビアン様。クロは「クロです」と答えた。興味ないからって適当な対応になるのやめてやれって。


「シロさん、クロが美人のお姉さんに捕まっちゃったけど。どうする?」

「いや、何もしないけど。なんで?」

「弟が大人の色気に負けちゃうのはみたくないかなーと思って」

「別に姉弟でな……あー、いいんじゃない? どうせすぐ捨てられるだろうし」

「誰が遊ばれて捨てられるだって?」


 「あんだとおら」とメンチをきるクロに「えへへへ」と笑ってごまかすトマと私。


「もしかして君達、私たち『紅蓮の獅子』を知らない?」

「レオンさんなら知ってますよ」


 クロがレオンさんに向かって指をさす。うんうん、レオンさん「は」しってるよ。他は知らなかった、冒険者になったといってもGランクだから他の冒険者との交流なんてないからね。


「それじゃあ、私達がどれくらい凄いか見せてあげる」


 そんなことを言って、ビビアン様が氷で出来ているような杖と、こぶし大の闇の魔石を胸の間から取り出した。わお、ベタに谷間から出すのね!! 言っておくが胸というのは脂肪の塊だから。脂肪だから!! 

 チッ! と私が舌打ちをしている間に、ビビアン様は杖と魔石を構え、詠唱をはじめる。



〈闇よ、魔物をつくり出せ、召喚サモン!〉



 召喚魔法のようだ。


 黒い点が広がり、中からずずずっ、と大きな魔物が現れた。大きな角が生え、蝙蝠のような翼が生えている。

 へぇ、初めて闇魔法見たなぁ……ところで、この魔物、嫌な予感がするほどにデカいんだけど。悪魔といったらしっくりくる見た目してるんだけど。


 突然現れた巨大な魔物に、悲鳴をあげる子ども達。ビビアン様は「あらー大きいわね」と頬をひくつかせている。気づいたレオンさんとヤジロベエ様も駆け寄ってきて、魔物を見上げた。


「ビビアン! 何を召喚した!?」

「あ、ごめんレオン。先日手に入れた闇属性の魔石を使ったから、上級悪魔かしら……?」

「上級悪魔でござるかぁ、子ども達を避難させるべきでござるな!」


 「みんな! こっちでござる!!」と避難誘導を始めるヤジロベエ様。レオンさんは「ビビアン、あとで説教だ」と言って大剣を構える。ビビアン様も半泣きの泣きまねをしながら「ごめんなさーい」と謝っていた。


 落ち着いた対応だな。流石Aランクパーティー、同じAランクの強さをもつ魔物が現れても、余裕ってことか。と、逃げながら三人の表情を伺っていた。が、ヤジロベエ様の独り言で背後を二度見する羽目になる。


「上級悪魔なんて、ビビアンもけったいな魔物を召喚したでござる。以前倒した時は五人でギリギリだったというのに」


 ちょ、ま、何て言ったでござるかああああ!?

 Aランクパーティーの『紅蓮の獅子』は五人パーティーなのはわかった、前にも倒したことはわかった。わかったけど、いま三人しかいないよね。補助魔法を使う魔法使いがビビアン様で、アタッカー剣士のレオンさん。ヤジロベエ様は攻撃を集中させて受け止めるタンク役だろう。

 ということはヒーラーとレオンさん以外のアタッカーがいないんだよね? ゲーム脳で考えるとそうだけど、そうだよね? と私がテンパり始めた。


 どうするの? どうするの? アタッカーはまぁいいとして、ヒーラーがいないのは致命的だよ? レベル差があればなんとかなるけど、基本ヒーラーはどんなゲームでも大切なんだからね!?


 私が焦る理由はゲーム好きだからだろう。しかし、「ゲームだったら」の話で、現実では攻撃を喰らわなきゃいいだけである。


 それこそ難しいって? 


 いや、やれば出来る。私はやってた、だって斬られたら痛いんだもん。めっちゃ痛いよ、刀って斬り味抜群なのよ? いい刀を使った時のお話ですけどね。

 

 ヤジロベエ様が偶然居合わせたギルド職員に説明し、泣き叫ぶ子ども達を託した。

 大太刀をスラリ抜き、闘技場に駆けていく。その後ろ姿を子どもの多くは「かっけぇ……」と見送った。


 うん、めっちゃカッコよかった。鬼族で、大太刀なんて、期待を裏切らない。最高かよ。大太刀見せて欲しいわ。


 偶然居合わせてしまったギルド職員さんは、悲鳴を上げながら右往左往している。騒ぎに気付いた別の職員さんが「ギルド長に報告してくるから、子ども達を研修室に避難させろ!!」と言って走っていった。

 こっちの背中も逞しいぜ。



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