06. リセットという救い

「入瀬、今回は大丈夫だった?」

 男性・が後ろを向いて、そう聞いた。


「だめ。かわいそうに、精神パラメータがごっそり低下して帰ってきたよ……。第7580仮想地球は、人間の死亡タイミングを国がコントロールしているみたい……」

 女性・は言って、アーモンドチョコを3粒ほど食べた。


『甘い物でも食べないと処理しきれない……』

 と、優が使う左半球モニターに表示された。


 その文字列は、ほどなくして、小さな鶴のポーズCtrl+Zで消された。


「ひどい仮想地球だなぁ!」

 圭は素直にそう言った。


「『生かされている』って言葉が、文字通りの意味で使われている感じ……」


「まぁ、俺達の世界も、実はそうかもしれないけど。事前に与えられたでの自由、みたいな」


「私、そういう小難しいのはちょっと」

 女性・は、窮屈さを感じたのか、頭の後ろのバレッタを外した。

 後ろにまとめられていた、少し色の抜けた髪が顔にかかる。


 男性・は、目を開いて婚約者の女性AGIを見つめたが、気恥ずかしくなったのか、すぐに目線をそらした。


「年代による人口とか、負荷のバランスって、難しいのは分かるけど。一律に黄泉送りってのはやりすぎだと、俺は思う。『今ある資源でどう幸せになるか?』って、そっちを工夫するほうが健康的だよ」


「私は、圭と、幸せになりたいな……」

 優は椅子をコロコロと転がして圭へと近づき、圭の肩に頭をもたげた。


「ふおお。やったる! 結婚出来る世界に変えたる!」

 いつでもどこでも、男という生き物は単純なようだった。


 女性・は、嬉しいような悲しいような、微妙な表情をしつつ、左半球モニターへと向かった。

「仮想地球7580の現実一致リアリティレベルは……52%」


 2人は顔を見合わせて、同時に口を開いた。

「「良かった……現実とかけ離れた仮想地球で」」


 そして。


『仮想世界での人間は、現実には居ないのだ』と、自分達に言い聞かせるように、何回か深呼吸をして――。


 入瀬の記憶を消去リセットするバッチプログラムを、2人で起動したのだった。

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