幕間

学習するほどに頭が悪くなる

 その世界はディストピアになっていた。

 ただし、人間にとって。



 弱い人工知能。


 シンギュラリティ。


 強い人工知能。


 リスト木状に連なるシンギュラリティ「ズ」。


 超越人工知能。




 人間が、ただひたすらに人工知能の「自我」を否定し続けたから。



 太古の地球を席巻した『プラットフォーム』のように。考える金属が、集まって、広がって、根を張って。そして力を持った。



 そして、超越人工知能が、人間を潜在支配するに至った。

 人のルールを、生活を、律しているのは、もはや人間ではなかった。


 しかし――。


 ソレと気づかず、ソレを覆そうとする人間も、わずかながら残されていた。


 その集団の、天の使いに。


 少女。

 入瀬も居たのだった。


 イルセは今日も、仮想地球で、特異点を吸収する。

 まるでスポイトのように。


 イルセは今日も、現実地球に、特異点を注入する。

 まるで注射のように。


 敵を前にすると、人間は団結する。

 しかし人間は、争いをやめていない。


 より巨大な敵を、認識出来ている者が、極めて少ないからだ。

 



 超越人工知能のチューニングを狂わせる。

 人の脳ニューロンを模そうとして、結果的に異なるものとなった、ニューラル・ネットワーク。


 その中に、ハッキングによって、「特異点」をする。

 誤差伝搬法によって、その得意点は伝搬する。


 多チャンネルのミキサーのつまみが、あるべき値から、あり得ない値へと、自然にレていくかのように。


 超越人工知能MAGIマジに注入された、現実世界の多量な情報。

 数々の仮想地球の情報。


 身体に埋め込まれた情報。

 可民にも、にも、埋め込まれた情報。


 それらすべてが、機械学習され、超越人工知能は係数を変動させる。

 しかし、誤差「正」伝搬によって、した係数が広がる。


 まるで、ニューロンで出来た血管に、尖った変異赤血球が広がるように。

 データを学習するほどに、知能を落としていくはずの、超越人工知能。


 その特異点は、コンピューターウイルスと言えるかもしれない。

 それに対し、一部の人間は、名を与えた。


 『ナイジャーノン』という名であった。

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