摩耗核惨事

@pip-erekiban

第一章 本会議

所信表明演説‐一

二〇二X年六月一〇日午後○時開議(本会議)

第二〇X回臨時会開会に伴う国務大臣演説


(衆議院議長榊原さかきばらあきら

 内閣総理大臣から所信に関する演説、財務大臣から財務に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣廣瀬和夫君。


(内閣総理大臣廣瀬和夫君登壇)

(廣瀬和夫内閣総理大臣)

 所信の開陳かいちんに先立ち、まずは、半年前に発生いたしました摩耗まもう核惨事かくさんじによる全ての犠牲者の皆様方に哀悼の意を表しますと共に、広大な面積に及ぶ汚染地域から、心ならずも避難を強いられ、現在も困難に直面している国民の皆様方に改めてお見舞い申し上げます。

 私はこのたび、第○代内閣総理大臣を拝命いたしました。

 今、私が演台から眺める議場の風景は、三ヶ月前まで私どもが侃々諤々かんかんがくがくの議論を戦わせた、あの慣れ親しんだ議場の風景とはその趣を異にしております。

 三ヶ月、我が国を襲った未曾有の大惨事は、国政の中心であった国会議事堂をも、その汚染区域内に飲み込み、私は今、福岡臨時仮議事堂かりぎじどうの演台より演説しております。臨時仮議事堂における国会の開会に関しましては、立て替え工事等やむを得ない事情を除き、明治二十七八年戦役時の広島臨時仮議事堂におけるそれをおいて私は他に例を知りません。

 このたびの災厄は、その犠牲者数、国家の産業、経済に及ぼす影響、外交等国際社会に及ぼす影響その他において、文字どおり戦争に比肩しるものであり、しかもその災厄は現在も依然進行中であります。内閣は本国会を、未曾有の大災害に見舞われた我が国の、復興の端緒と位置づけて臨む決意であります。各党各会派の皆様には、これから申し上げる復興政策に関しまして、何卒なにとぞご理解とご協力をお願い申し上げます。(拍手)


 本国会の開会に先立ちまして、私は山陰地方に所在する、ある避難者仮設住宅を訪問いたしました。そこで目にいたしましたのは、復興に希望を捨てることなく、懸命に今を生き、明日に希望を抱く人々の、力強い息吹でありました。

 ある少年、彼は小学四年生だそうでありますが、本件災害に伴う混乱の中で、お母さんを亡くしたそうであります。彼は真っ直ぐに私の目を見詰めてこう言いました。

 今の大人達が放射能を除去することが出来ないのなら、僕は一生懸命勉強をして放射能をなくす方法を絶対に見つけるんだ。そしていつか必ずお母さんを見つけ出して、一緒に家に帰るんだ、と。

 ご高齢の女性は伏し目がちながらも、何者にも屈しない力強い眼差まなざしでこう言いました。

 私達の故郷はどうしようもない田舎だったけれど、私達のご先祖様は代々あの土地で何不自由なく暮らしてきた。あんなに住みよいところはなかった。被曝の影響は若い人に対してほど大きくなると聞いている。だったら私たち年寄りが除染をやる。年寄りはみんなそう思っている。私たちが命懸けで除染をして、必ず故郷を取り戻してみせる、と。(「総理が除染やれよ」「よし、行ってこい」と呼ぶ者あり。議長「静粛に願います」)

 復興に向けた力強い歩みを踏むのは、被災者、避難者の皆様だけではありません。

 翌日には、仮設住宅のインフラ整備に当たっている若い自衛隊員に直接話を聞くことが出来ました。彼は、本件摩耗核惨事の発生当初から「摩耗」 駆除のため出動し、その後の被災者の救助、避難誘導活動など、もっとも過酷な現場を経た後、この避難所における生活インフラ整備の任に就いているということでした。

 彼はこう言いました。

 私自身も今回の災害の被災者です。所属する駐屯地だけではなく、実家も汚染区域に含まれ、私の帰るべき家は失われました。

 今、自衛官として多くの同僚が除染活動に従事し、私は避難者の生活インフラを整える任務に従事しています。今、私が一生懸命に任務に従事することが、やがて故郷を取り戻すことにつながると思うと、自然と力が湧いてくる思いです、と。(「本音じゃねえだろ絶対」「手前味噌」と呼ぶ者あり。議長「静粛に願います」)

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