第44話 殺し屋と2人目の同業者 その6
その時、未来が立っていたところは、丁度車一台分通るか通らないか分からないくらいの狭い路地との交差点だった。
あまりにも唐突な出来事に反応できなかった。
ぶつかった衝撃で彼女の小柄な身体は宙へ飛ぶ。
「未来!」
一瞬の間が空いて俺は叫ぶ。
車はそのまま走り抜ける。
後方の道路へと未来は落下する。
骨が折れた鈍い音が辺りに響く。
俺は未来に慌てて駆け寄った。
「大丈夫か!」
「ええ」
未来は腰をさする様子を見せる。
服はボロボロに傷んで、口から鮮血が吹き出していた。
が、しかし未来はすくっと立ち上がった。
未来の髪が微かに青白く輝く。
身体に光が入るような気がした。
「残念ながら、回復してしまったようですね」
「お、おう」
そうか、と俺は答えた。
あんな高速で車に撥ねられても、直ぐに回復してしまうのか。
「同時に複数の場所へ傷つけても、ダメなんだな」
「少し回復に時間はかかりますが、何事も無く治りますね」
そういうと未来は服についた汚れを払った。
「普通なら無事で良かったと、いうところなんだろうけどな」
「いえ、ひかるくんに殺されるのを私は望んでいるのですから」
「えーっと、それはどう受け取ればいいんだ?」
最早こんなの他意があるとしか思えないんだが。
「それに、こんな衝撃で死ねるなら殺し屋に頼んだりしませんよ」
ところであの車、何かおかしくありませんでしたか?と彼女は言う。
いや、おかしいところは多分いくらでも見つかるんだろうけど。
「とりあえず、あの車は何故あんなに飛ばしていたかだな」
「こんな小道、人がいたとして直ぐに気付ける訳はありませんし、この小路は曲がり道も多いので普通徐行するでしょう」
「じゃあそんなに急いでいたのか、と考えてみるけど…」
人を撥ねたことさえ放っておく急ぐのであればこんな道は通らない。
直ぐそばに国道が走っており、そっちを通る方が早いに決まっている。
「この道をまっすぐ行ったとして、当分住宅しかないし、まさか家に帰るために飛ばすやつなんてそうそういないだろう」
「そうでしょうね、あとは私を撥ねたあとの車体は見ました?」
「うーん、あまり見えなかったな」
乗っているのがただのサラリーマンであろうとしか分からなかった。
「私は何回か車に轢かれたり撥ねられた記憶があります」
「なんで、そんな記憶があるんだ」
「実験です」
あぁ、と俺は納得する。
それで特に気にする様子を見せなかったのか。
「その時の車は人を撥ねた時点で大きな凹みを作っていました」
丈夫な車とはいえ、高速で人にぶつかったら無事では済まないのか。
「しかし、あの車はびくともしませんでした」
身体を完全に弾くような感触でした、と彼女は平然と言う。
「つまり、装甲でもしていたというのか」
「おそらく、それに近い感じなのでしょう」
つまりわざわざこの小道を高速で走る理由、それは…
「俺たちを殺しにきたと」
「そうとしかいえないでしょうね」
第二の刺客っていう訳だな。
上等だ、車相手でも殺してやろうじゃねぇか。
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