第35話 殺し屋と1人目の同業者 その2
22時50分、クライアント…ではないな、決闘相手を待たせるのは性に合わないので、俺はその時間に桜内公園へやって来た。
宮本武蔵が巌流島の決闘にてわざと遅れて敵を激昂させるという戦法を取ったという逸話が残されているけれども、それであいつが怒り狂うこともありそうにないし、そもそもそれは創作上の話であり史実ではないというありふれたオチが待っているのだけれども。
園内に入ると、ブランコに人影を見つけた。
もう、すごい勢いで漕いでるんだよ。
ギィギィと、軋む音が酷い。
当然のことながら乗っているのは、あのランドセルを背負った女の子だった。
…女の子という表現で合っているのだろうか?
「おっ、やっと来たねー!随分待ったんだよ」
「随分って、これでも23時には間に合ってるだろ?」
「いやぁ、待ちきれなくて2時間くらい前に来ちゃったもん」
「初デートの男子中学生かよ」
相変わらず気持ち悪いやつだ。
「そんな事言わないでよ、これでも多感な小学生なんだよ?」
「どこをどう見たら小学生なんだ…って危ねぇな!」
普通に話していると思ったらいきなりナイフを投げてきやがった。
「けー、油断も隙もないんだね」
「そりゃこっちの台詞だろ」
「まあいいや、そろそろ始めますか」
「もう始まってるんじゃなかったのか…」
なんか、終始相手のペースに乗せられてそうだ。
公園の広い所まで下がると、彼女はブランコからジャンプをして柵を越えた。
なんか、2ヶ月前もこんな事なかったっけ?
その時は未来が居たけど、今回は流石に危ないし家に置いて来たからな。
アリスさんもちゃんと見てるように言っておいたから誘拐されることはないだろうけど。
「ねぇ、死神さんもそろそろ得物を出したらどうだい?」
どんな物使うのか気になるんだよねぇ、と左右に揺れながらねだってくる。
「そんな嬉々として見るもんかよ」
と言いながらいつも通り右手に三日月型のナイフ、左手にサイレンサー付きの拳銃を出す。
「なに、そんな特別性のもんじゃねぇだろ?」
「いいや、見るだけでわかるよ。毎日毎日丁寧に手入れしてるみたいだね」
まあ一応商売道具だし…それぐらいはするだろう。
「標的を切るというより刈ると言った方がいいぐらいのナイフに、乱発しても音が全く漏れなさそうな銃か!」
「それがなんだ」
「いやー、まさに死神みたいな武器だよ!これは絶対に腕を拝見させてもらいたいね!」
「いいだろう、だけどその頃にはあんたはもうナイフは投げられなくなってるだろうけどさ」
「本当に噂通りだよ!黒ずくめの衣装に、自信家って」
と、彼女は一旦口を閉じて、大きく横に広げていった。
「だからこそ、殺し甲斐があるんだよね!」
さっきまでの気味悪い眼から、標的を定める肉食動物のような鋭い眼に変わった。
「良かったよ、唯の変態じゃなくてちゃんと殺し屋で」
「ふーん、私のこと変態だと思っていたんだ」
「変態じゃなきゃなんだよ」
その眼になっても減らず口は変わらないのか。
「それじゃあ、始めようぜ。『死神のライト、お前を殺しに来た』」
「へへっ『鉄の処女』
今まで散々不意打ちして来たお前がなにを言うんだ。
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