第12話 殺し屋と不死鳥の公園

「あれ?えーっと、私は確か…」

 どうやら起きたみたいだ。

 公園のベンチなのに、あれから1時間寝ていやがってた。

 良くそんなのでここまで生きてこれたな。

 いや、これぐらい図太かったから存外生きてこれたのかも。

 こいつ、本当に厄介な人生送っているな。

「誘拐されてたから解放させた、それだけだ」

「あー、えーっと…ありがとう」

 少し状況を考えたあとで未来は感謝を述べた。

「やっぱり、研究所の人達?」

「だろうな。見るからに研究者っぽい奴と実験対象だろうという男だったからな」

 俺は彼らを思い出した。

 未来の身柄確保以外に何か目的のあるような雰囲気だったが、それ以上は分からない。

 データだとか何か言っていたが、まだ確証が持てない以上未来に話しても不安を煽るだけだ。

「取り敢えず、家の鍵はしっかり閉めておくか」

 まあ、次は鍵穴ごと破られていた なんて事もありそうだが。

 なにせ、家の1つぐらい軽く全焼させる連中だ。

 一応、この仕事柄なので警備はかなりしているはずなんだけど…

「それで、彼らはどうやってお前を攫ったのか?」

「『クロ〇〇ヤマトです』ってインターホンで」

「嘘だろ!?あの姿で?」

 また、古典的だ事。

「というと、それで普通に開けちゃったんだね」

「うん、それであの人たちは驚いた顔したあと、何かで私を眠らせたみたいだよ」

 そりゃそうだろう、普通に考えたら未来を匿っている者が出てくるだろうな。

「もし本当の宅急便だったとしてもお前、判子どうするつもりだったの?」

「あ」

 なんにも考えていなかったのか。

 こいつはかなり図太いな。

「まあ、いいや取り敢えず家に帰ろう」

「そうだね、ひかるくんは自転車で来たの?」

「ああ」

「じゃあ二人乗りしよう?」

 なんで。

「1回やってみたかったの」

 と言いながら彼女は公園の入口に止めてあった自転車に跨った。

 あのー、なんで誘拐された後なのにそんな元気なの?

 そして、なんであんたがサドルに乗ってるの?

 後、その自転車俺のじゃないよ?

 ツッコミが追いつかなくて、思わず絶句した。

 えーっと…取り敢えず、

「自転車は押して帰る、慣れないと危ないし道路交通法違反だ」

「うーん、殺し屋さんが法律守る必要あるの?」

「あるに決まってんだろ!」

 1回殴りたい。

 尚もむかつくのは、これらのセリフ全部をほぼ無表情で言っていることだ。

 言葉には感情が乗っているのに、顔には殆ど出ていない。

 マンガみたいな表現だが、表情筋死んでるんじゃねーの?

「さあ、アリスさんが騒ぎを起こす前にさっさと帰るぞ」

 俺は自分の自転車の所へ行き、ロックを外す。

 あの人もあの人で心配性だからな。

 まあ、面倒くさがりな彼女が自分から捜そうとなんてしないだろうけど。

「はーい」

 相変わらずの無表情のまま、未来は自転車から降りて俺について来た。

 空は昨日みたいに凍えたまま、でも微かに星の光が暖かくなったかのように気がしていた。


「一応言っておくけどこの世界は2月だからね」

「未来、お前誰に言ってるの?」

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