第10話 殺し屋と殺人鬼の公園 その1

 公園に着くと、広場の真ん中で黒人の大男が仁王立ちしている。

 本当にあれは未来さんとは関係ない、ただの果たし状なのかなと思ってしまう。

 でも、横には細身のスーツを着たメガネ男が、気を失っている未来をお姫様抱っこしていた。

 ちょっと二人が似合っているのがイラつく。

 俺は自転車から降り、2人に近づいた。

「お前ガ『ライト』だナ」

 少し片言の日本語で大男は喋った。

「お前に会えることヲ、楽しみにしてたんダ」

「そうか、俺はもう寝たかったんだけど」

 俺は気だるそうに返した。

「そんな事言うなヨー、死神さんサー!」

 大男は肩を鳴らしながら近づいてきた。

 こうなると流石に迫力が一般人と違う。

 いや、裏社会でもここまでの人はなかなかいないだろう。

 俺もそこまで身長が低い方ではないが、ちょっと縮んだ気がする。

 でも、ガタイが良いだけの奴なんて、正直俺の敵じゃない。


「分かった分かった、つべこべ言わずに始めよう。

 どうせ、『返して欲しけりゃ力ずくで奪ってみろ』とかいう気だったんだろ?」

 俺はわざと挑発するように喋った。

 横のメガネ男は近くのベンチに未来を下ろしている。

 いや、疲れたんだったら最初からそうしておけよ。

「よーく分かってんじゃねえカ!全くその通りだゼ」

 俄然やる気になったのか、鼻息を荒くして、大男は続けた。

「俺の名ハ、『ガウリル ウォール』アメリカでSerial killerしてたんだヨ」

 シリアルキラー、連続殺人か。

「そうか、ガウリルさん。知っていると思うが、俺は『ライト』殺し屋だ」

「あア、知ってるゼ」

 彼は早く始めたくてたまらないみたいだ。

 ではさっさと終わらせるか。

「じゃあ、やろうか」

「おゥ、Are you ready?」

 ネイティヴな発音で発せられたその言葉は、その音が届く前に既に身体が動いていた。

 彼は青龍刀のようなデザインの剣を2本持ち、振り回す。

 恐らく、殺人のときはその獲物で解体を行っていたのであろう。

 大きな剣は空気を切り続けるように風圧を送り続ける。

 ただ、やっぱりこれでは取るに足らないな。

 軌道が見え見えで、隙が良くわかる。

 結局、素人止まりか。

 俺はその隙をみて懐に潜り込もうとした。

 その時、

 ガウリルの刀は突然軌道を変え、俺に直進してきた。

 既のところで避けたが体勢が悪い。

 このままじゃあ、2本目の刀の餌食だ。

 俺は左ポケットの中にある銃を取り出した。

 カチッと音が鳴り、弾が装填される。

 それに察知したガウリルは後ろに飛び、構えた。

 お互いに驚いた表情を見せているのであろう。


「あの軌道変えは、人間業じゃねぇな」

「フッ、これは俺の特別製な身体が可能にさせてるんだヨ。

 俺は警察に捕まったあト、死刑囚になるはずだっタ。でも、この研究機関に実験体として収容されテ、俺はこの頑丈な関節を手に入れたんダ!」

 そうか、道理で肩が異常に動くはずだ。

「貴様はもう人間じゃあねぇのか」

「それは俺の台詞でもあるヨ、隙をわざと作ったのは俺の作戦だが、まさか、直ぐに飛び込むとは思わなかっタ。あとはその拳銃だナ、あの体勢のくせニ、構えから撃つまでのスピードがcrazyだゼ」

 そんなもん練習さえすりゃどうにかなるもんだ。

 これはちょっと骨が折れそうだ。

「じゃあそろそろ本番と行こうか」

 冬の月は俺たちを静かに照らしていた。

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