第四話

 実際に五次元宇宙内における知的生命体の科学技術が怎麼生そもさん発達しているかおくそくできない。無論ちらの宇宙において半径一千億光年規模の宇宙を熱力学的にせんめつする技術が発達しているのだからいんもうの時空連続体の概念をりようする五次元宇宙ではさらに進歩しているだろう。半径四百六十億光年の宇宙をないに崩壊させることなど児戯にひとしいはずだ。といえども相手の目的はおそらく電脳空間のサーバーの物理的領域確保である。ちらの宇宙ぜんたいじんかいめつさせるとはおもえない。がいぜんせいとしてはちらの宇宙の知的生命体ひつきよう巨億の人類をこんほうたる地球ごとそくめつしてサーバーの物理領域を確保することを目的としているのだろう。現状維持では九割方〈九分後に人類は絶滅する〉のだ。あんたんたる沈黙に支配された〈研究所〉の入口にてきちよくして十秒以内にそうした。いわく〈どこでもドアを実戦使用する〉と。同様に沈黙しながらも〈研究所〉内に静寂のさざめきがひびく。しゆもなくひとりの所員が発言する。〈どこでもドアは使用可能ですが四次元宇宙から二次元宇宙へのアインシュタイン-ローゼンブリッジの開放のための二次元宇宙内の知性軆モデルの計算が終了していませんこのままどこでもドアを開放するとアインシュタイン-ローゼンブリッジが二次元宇宙内でシュヴァルツシルト解にほうちやくし二次元宇宙全域が崩壊しかねません〉と。たしかにそうだ。たまゆらちゆうした。子供たちだけじゃない。おおきなおともだちだってらいえいごう二次元宇宙を観測できなくなればかなしい。絶望するものもいるだろう。といえどいんの理由で四次元宇宙が崩壊したら本末転倒である。そもそもこんかいの開放で二次元宇宙がしつかいせんめつされるともかぎらない。所員が絶叫した。〈人工惑星の自転速度の計算がをきたしていますきようこう二分十秒で宇宙間弾道弾が発射される模様です〉と。〈研究所〉内のこうは一致した。〈どこでもドア開放〉とすると〈研究所〉内でモニターされている〈どこでもドア〉がひらいてゆく。同時に五次元宇宙から宇宙間弾道弾が発射された。銀河系内の真空地帯に発生したまんのようなかいなる穿せんこう内の人工惑星より発射されたのだ。白銀の宇宙間弾道弾はきようらんとうの推進機関からはくして疾風迅雷で地球へとばくしんしてくる。弾頭たいの推進力からいって一分以内に地球は破滅するだろう。〈研究所〉内はほうはいたる沈黙にじようされる。宇宙間弾道弾の軌道が大幅に湾曲した。闘牛士のような存在が軌道上で〈マント〉をひるがえすと放物線をえがいて地球からかいしていったのである。

 ドラえもんだった。 

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