第27話

 諜報部隊は殺気を武器としてその身一つで戦うことがある、それ以外の喰闇鬼が暗器あんきや刀などを武器として使うのは、その武器が付いた血を吸収して後で排出するという、開発過程で何となくストラーナが思い付いたワケの分からない機能を持っているからだ。


 大昔は素手すでだけで戦っていたが、血は落ちにくい、殺しを生業なりわいとするようになった頃、着衣ちゃくいから血の匂いが消える日がなくなった。敵や標的にも気づかれやすくなる、ゆえに喰闇鬼始祖氏くろやぎのしそうじからの依頼をけたストラーナが、付いた血を完全に吸収する武器と装束しょうぞくを作ったのだった。武器から排出した血は、吸血種族に新鮮な状態で売ることができる。


 魅夜乃が率いる抜刀隊の近くまで敵がやって来るまでは、まだ少し時間があった。ただ静かにときが来るのを待っていると、彼女のそでをクイクイと引っ張る者がいた。夜之助である、魅夜乃が真っ直ぐな髪をサラリと揺らして首をかしげると、小さな彼は人間達のほうを指差した。


「魅夜乃様、みんなが、喰闇鬼の戦いを見たいようです」


 その言葉に、魅夜乃はまぶたを閉じて考える素振そぶりを見せた。そして、ふところに手をやると、小さな球体きゅうたいをいくつか取り出した。それを見つめながら、彼女は人間達を振り返り言う。


「我等は…人間ではない、お前達よりも遥かに強靭きょうじんな肉体を持ち、想像も及ばぬほど速く動くだろう。お前達が見ることになるのは………わらわすすめぬ、それでも見たいか」


 馬乗袴うまのりばかま姿でおかっぱ頭の、美しく妖艶な鬼が真っ直ぐな視線を向けながら、その手にいくつかの玉を乗せて口にした問いに、燈吾を始め、多数の者が頷いた。人間達の反応を確認した魅夜乃は、手にあった球体を上に放り投げた。球体は、ちょうど人間達に見えやすい位置まで勝手に移動すると、映写機えいしゃきのように画像をうつし出した。そこには、配置に付いている紘之助含む、別々の場所にいる一族の姿がいくつもある。


(…一之森いちのもりめ、どんな脳を持ったらこんな物が作れるんだか)


「見たくなくなったら、目を閉じていろ。夜之助、お前はこの人間達をしっかり守るようにな」


「はいっ」


 魅夜乃からの言葉に、人間と夜之助がうなずいた。そのとき、彼女が勢いよく後ろを向いて、刀のつかに手をかけた。


〈こちら観測地点・統括者とうかつしゃ、ポイントA第一抜刀隊、敵軍迎撃まで七分。繰り返す、ポイントA第一抜刀隊敵軍迎撃まで七分〉


 日がかたむき始めてきた、屋敷前にいる抜刀隊の燃えるような殺気の色は、濃ゆくなってきている。一秒一秒、まるでけものが狩りを始める体勢に入るように、彼等はゆるりゆるりと重心を下げていく。一度に三十万を超えるような敵軍を三百の鬼でむかつのだ、完全な仕事ではないためか、彼等の元来がんらい持つ獰猛どうもうさが遺憾いかんなく発揮はっきされようとしていた。


 一瞬、誰かがうめく声が聞こえた気がして、里の人々がキョロキョロと辺りを見回していると、盾の上で見張りをしていた夜之助から答えがってきた。


「えーと、みんなの前にある画像を……動く絵?を見てください」


 すでに敵軍の一部は、コチラの数が圧倒的に少ないことを考慮こうりょした陣形じんけいで、まず里を囲む山から攻め入ろうとしていたのだ。それを迎え撃っているのは、暗殺部隊でも抜刀隊でもない、諜報部隊員だった。太い針のようにとがらせた殺気を疾風はやてのごとくあやつり、斥候せっこうその他の足軽や弓兵を一撃で確実に仕留しとめていっている。さながら多頭たとう大蛇おろちうごめいているかのような姿が、モニターに映っていた、呻き声は、その中の敵があげたものだ。


 燈吾を含むこの場にいる人間達は、鬼の力に目を見張っている。趣味は悪いかも知れないが、アルフォンソは、この喰闇鬼一族が仕事以外で殺しに動くさまが、とても好きだった。殺気で揺らめく髪も、躊躇ちゅうちょなく次々と敵にトドメをさす様子も、魅入る事さえあるまいのように洗練された動きも、喰闇鬼の全てが彼をとりこにする。


〈第一抜刀隊、迎撃まで三分〉


「了解」


 諜報部隊からの報告に答えた魅夜乃が、前を見据みすえてニヤリとわらった。赤い歯と、漆黒の牙がき出しになり、いよいよ狂暴きょうぼうさがあらわになってくる彼女、伊達だてに幹部連上位に名をつらねていない。





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