第24話

 着信のパネルに出た名前を見て、ストラーナは即座そくざに上手くいかなかった事をさっしつつ、なんと言ってあやまろうかと考えながら受話ボタンを押した。途端とたん、耳をつんざく様なするどい声が脳をめぐった。


一之森いちのもり!!なんで深海に出るのよ!?」


『あー…ごめんなさい〜、人数が多かった分、その比重ひじゅうで出現場所と高度が変わったのかな?たぶん…』


 一之森いちのもりとは、ストラーナの本名だ。彼女は、彼を本名で呼ぶ数少ない存在の一人である。彼等の服と髪は、海面から飛び出して着地するまでに全て乾いた。全員に武器の確認をさせながら、不満そうに要項ようこうう。


「全くっ………まぁいいわ、それで?総指揮官の気配けはいひろえないくらい離れているようだけれど、我等はどちらに向かえばよいの?」


『えー…そこからちょうど東の方角に向かって……三千キロ…』


 数秒で落ち着いたらしい彼女を含む数十名の額に、青筋あおすじが浮かんだ。無言で通信を切り、セーラー服からはかまに着替えた彼女は、全員に戦闘用ブーツと籠手こて装着そうちゃくを指示してけ出した。今回、この一団いちだんを率いて此処ここへ来た彼女は、数億いる喰闇鬼一族の中でも、すぐれた能力と肉体を持ち合わせる幹部連No.15、暗殺部隊の別働隊べつどうたい、抜刀隊副隊長、黒柳くろやぎ 魅夜乃みやのという。


「あの野郎…帰ったら首三十回、引き千切ちぎってやる」


 物騒ぶっそうだとは思いながらも一切同情しない一団は、木々をぎ倒し、山をけずり、地面をえぐり、さながら漆黒の地龍ちりゅうの様にうねりつらなり、すさまじい勢いで大地をけてゆく。


 昼になり、忍び物見ものみとして出ていた四人の忍が、息を切らせながら里へ戻ってきた。その内容は[未来を予言する巫女を手に入れるため三十万の兵力で里に攻め入る]というものだ、紘之助もいる中で居心地が悪そうにしている三人の下忍は、藤丸暗殺を実行した者達だった。


 里の者達の顔が強張こわばっていく、彼等が最初に頼ったのは巫女みこだった。どう動けば助かるのか、逃げ切れるのか、押し寄せる人々に対して、巫女は[分からない]とり返す。紘之助がやって来るまで未来を予言してきた巫女が、何もしない、何も言わない、里の人々の落胆らくたんを前にして、彼女はひざから崩れ落ちた。そして、勢いよく紘之助を指差すと、いきなり金切かなきり声でわめき散らし始めた。


「その男が悪いのよ!その男が来てから予言ができなくなったのっ、全部そいつのせいよ!藤丸みたいで気持ち悪いわ!はやく殺してよ!あの時みたいに!!言うこと聞いてよっ!じゃないと助けないわよ!!?」


 里の者達の表情が、驚愕きょうがくの色に染まっていった。そして、地をうような、静かで怒りに満ちた声がした、燈吾だ。


「藤丸を殺せと命じたのは、貴様か」


 彼は、巫女…花形はながた 薫子かおるこの胸ぐらをガシリとつかみ上げて、そのまま殺さんばかりに感情が見えない顔でそう言った。


「─答えろ─」


 薫子は、ふるえながら、口を滑らせた事にも気づかず、まだ大丈夫だと心のすみで思っていたが、人々の前に出なくなっていた事にくわえ、暗殺を実行した下忍の目からも逃げるような生活を送っていたのだ、それらが間違いだった。今となっては、もう全てが、彼女にとって遅かったのだ。三人の下忍が、巫女のすぐ後ろで土下座どげざをしながら、ようやくみずからがおかした藤丸暗殺に関わったことをつみだと完全に認めて告白した。それを聞いて、燈吾は地面へ叩きつけるように巫女を落とすと、その頭をみつけた。


「貴様がよくに身をまかせて藤丸を私からうばった、それを認めず、今度は紘之助まで殺せという。貴様の予言などもう必要ない、本来ならばこれまでもそうだった、我々が間違っていたのだ。我等の未来への道は、みずから考えてえらび取らなければならない」


 嗚咽おえつする巫女の頭から足を退けた燈吾は、直接手を下した三人の下忍のことは視界にうつさず、怒りや悲しみや色々な思いにられて混乱している里の者達に向かって声をあげた。


みな、私の話を聞いてほしい!」





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