I; The Magician



<正位置; 想像力 策略 隠された真実>



 後に菊池重徳という名が明らかになる、その頭のおかしい異常者がステップワゴンで学校の正面玄関に突っ込んだ「ドーンッ!!!!」という物凄い音が鳴り響いたとき、リヒトは「やっぱりきたか!!」と叫んで、すぐさま正面玄関のほうへと駆け出した。


 わたしは突然の大きな音に驚いているばかりで、なにが起こったのかすら把握していなかった。それなのに、リヒトだけは最初から予測していたかのように機敏に反応していて、迷いがない。逃げるのでも隠れるのでもなく、即座に物音がしたほうに向かっていく。その手には、いつの間にか無骨で大きなナイフが握られている。


 咄嗟に、え? 話が違うじゃんって思う。仮にわたしが学校にいると把握した誰かが外から侵入しようとしたとしても、侵入した時点でセンサーが反応するから、そのままじっと隠れ続けていれば侵入者がわたしたちのところに辿り着く前に警備員が駆け付けてくれるはずだって、そういう話だったはずだ。


 侵入してきたのが遠藤正孝であれ、他の誰かであれ、なにが起こったとしても、自分から武装して穴熊を飛び出していくなんていうことにはならない。ただじっと隠れ続けていればいいはずなのに、リヒトは迷う素振りすら見せずに瞬間的に飛び出していった。ナイフを持って。


 ナイフが突如どこか虚空から出現するわけはなくて、リヒトがナイフを持っているということは事前に用意してきたのだろうし、予めナイフを持ってきているということは、リヒトは最初から徹底的に防御を固めて、ただ隠れてじっと息を潜めているつもりなんてなかったということだ。

 

 リヒトはなにか、別の企みを持って学校に立て籠もっていたのだろうか。


 けれど、それがなんなのかが全然分からなくて、仕方がないからわたしはリヒトの後を追う。「え? ちょっと待って。睦深ちゃん!」と、困惑しながらも、嶋中優子も遅れてついてくる。


 一階に下りると、ガラスを突き破って下足室に鼻先を突っ込んでいるステップワゴンのヘッドライトの灯りを背負うようにして、下駄箱と下駄箱の間にずんぐりとした人影が立っていた。手にはなにか長い棒状のものを持っていて、その先端には包丁が括りつけられている。追いついてきた嶋中優子が男の姿を見て「ヒッ……」と、短い悲鳴を上げて、縋りつくようにわたしの身体の後ろに隠れる。なにも事情は分からなくても、一目で異常者だと知れるどこからどう見ても異常者な異常者だ。


 そのずんぐりとした人影にナイフの刃先を向けて、リヒトは「お前が、リオンを襲ったやつだな?」と質問している。


 話の流れがまったく見えなかった。いきなり学校の正面玄関にステップワゴンで突っ込んできたこの槍男が、リオンを襲った犯人? いったいなにをどうしたらそんな話になるのだろう? 脈絡がなさすぎる。


「こうなるのを待っていたよ」と、リヒトがずんぐりとした男に向かって言う。


「ムルムクスは物語の筋書きに干渉できるが、できることならなるべく物語を不自然な筋書きにはしたくないとも思っていて、できるだけあり得そうな方法を選ぼうとする。けれど、本当に物語がどうしようもなく行き詰ってしまえば、かなり無茶な筋書きも仕方なく使う。普通の方法じゃ絶対に手の出しようがない状態にして物語を詰ませてしまえば、ムルムクスは必ずまたお前を使うと思っていた。さすがに、同じ地域にお前くらいに頭のイカれた異常者なんてそう何人もいないだろうからな」


 なんの話をしているのだろう? リヒトの言っていることがまるで分からない。けれど、いま目の前で棒の先に包丁を括りつけたお手製の槍を構えているこのずんぐりとした頭のおかしい男は、実際に頭のおかしい異常者ではあるらしい。頭のおかしい異常者でもなければ、お手製の槍を携えていきなりステップワゴンで夜の学校に正面玄関を突き破って侵入してきたりはしない。


「お前は突然なにをやり始めたとしても不思議じゃない、頭のおかしい異常者。どんな物語の筋書きもすべて無視して、いつでも盤面をひっくり返せるワイルドカード。ムルムクスにワイルドカードを使わせるためには、ワイルドカードを使わざるを得ない状況に追い込むしかない。頭のおかしい異常者がいきなり正面玄関を突き破って突入してくるでもしない限りは絶対に安全っていう状態になれば、ムルムクスはこいつに正面玄関を突き破らせるしかなくなる」


 リヒトの口調は自信に満ちていて、自分のそのロジックを完璧に確信してしまっているようだけど、普通に言っていることにはまったく筋が通っていない。リヒトは遠藤正孝たちから身を守るために学校に立て籠もっていたのではなく、こいつをおびき寄せるために普通の手段では手も足も出せないように防御を固めていた? ムルムクスがこの物語の筋書きを操作していて、物語が行き詰ってしまうと道理も理路も無視して滅茶苦茶なことを始める?


 いったい、リヒトはムルムクスをどういうものだと仮定しているのだろう? 

 


 真相を喝破する名探偵のような自信に満ちた口調で、リヒトは断定する。


 狂っている。

 たぶん、他のみんなと同じように、リヒトもまた頭がおかしくなってしまっている。異常な状況にあてられて、異常な精神状態で、異常なロジックを組み立てて異常な結論に至ってしまっているのだと思う。


 けれど、実際にリヒトの目論見通りに、このずんぐりとした槍男はステップワゴンで正面玄関を突き破って万全の防御で固められた穴熊の校舎に乗り込んできたわけで、つまり、このようなシステムなのだろうと仮定して、ならば、このようにすればこうなるだろうと推定して、実際にやってみて、予想通りの結果を得たわけだから、仮説としては妥当してしまっている。


 それが真相なのだろうか? わたしたちの登場するこの物語を書いている何者かがいて、わたしたちはその物語の登場人物に過ぎなくて、そいつが、物語の作者が、わたしたちみんなを貶め、苛み、苦しむ様を見て喜んでいるのだろうか。


「物語は、作者と登場人物の意志のせめぎ合いだ。決して、作者がすべてを支配してコントロールしているわけじゃない。僕たちが物語の登場人物に過ぎないとしても、この物語の筋書きを決めている作者が存在するのだとしても、作者にさえ、登場人物の行動を完全に制御することなんかできはしない。物語においては、登場人物が作者の意図を超えて勝手に動き出すなんていうことも、時にはあるんだ」


 仮にそれが真相だとして、物語の筋書きを詰ませることで作者の裏をかいて、この頭のおかしい異常者をここにおびき寄せて、リヒトはどうするつもりなんだろう? 


「わかったって。わかってるよ……。やればいいんだろ、やれば。うるさいなぁ……」


 お手製の槍を手に持ったずんぐりとしたシルエットの男は、リヒトの声なんか聞こえていないみたいに、別の誰かと話をしている。わたしたちには聞こえない声を聞いて、その声に返事をしている。


「今やるところだって言ってるじゃん!!」と、ずんぐりとした男が叫び、槍を構える。

「こい! ぶっ殺してやる!!」と、リヒトが答える。リヒトは、笑っている。歓んでいるように見える。リオンを襲った頭のおかしい異常者を自分の手で殺せることが嬉しくて、歓んでいる。リヒトは、リオンの復讐を果たすためにこの物語にのだと、わたしは理解する。物語に乗って、展開を操作して、この頭のおかしい異常者をおびき寄せたのだ。自分の手で、ぶっ殺してやるために。


 でも、ダメだ。


 リヒトがこのずんぐりとした男をぶっ殺したとしても、リヒトがこのずんぐりとした男にぶっ殺されるのだとしても、結局はまた木曜日に誰かが死んだことになってしまう。リヒトがムルムクスの裏をかいてこの異常者を呼び出しぶっ殺したのだという解釈だけでなく、ムルムクスがリヒトに殺させるためにこの異常者をこの場につかわせたのだという解釈も成立してしまう。解釈の余地を残してしまう。それじゃあ、この物語はまだ終わらない。物語を終わらせるためには、誰も死なないままに木曜日を越えなければいけない。


 こんな物語の筋書きに、わたしたちは乗るべきじゃない。


「ダメだよ……」


 わたしは呟くけれど、そんな小さな声は誰の耳にも届かない。


「あああああっ!!」


 叫びながら、リヒトが下駄箱の間に立っている槍を構えた頭のおかしい男に駆け寄る。男は一歩踏み込んで槍で突いてくる。リヒトはそれを躱して懐に飛び込み「おらああ!!!」と、ナイフを振る。槍の間合いが長いせいで、躱して飛び込んでもまだ男の身体までは遠い。目一杯伸ばしたリヒトのナイフの切っ先は頭のおかしい異常者の腹を掠めるけれど、浅い。


「痛ああああっ!!!」


 男がまた叫んで、槍を引く。突いてくる。リヒトは横にそれを避ける。続けざまに男が横に振った槍の先が、ガコンッ! と、下駄箱に当たって、間合いの内側にいるリヒトには当たらない。左右が狭い下足室では長尺の槍は突くことはできても振り回すのには向かない。


「リヒト!!」


 わたしは叫んで駆け寄ろうとするけれど、背後の嶋中優子がわたしの服を強く掴んでいるせいで動けない。振り返って「ちょっと! 嶋中さん、放して!!」と、言うと、嶋中優子はブンブンと首を縦に振るけれど、手は放さない。自分の意志とは裏腹に手が勝手にわたしの服をギュッと強く掴んでしまっていて、放すことができないらしい。


 下駄箱の間の狭いスペースでは不利だと判断したのか、槍男はリヒトをタックルで押し返して、すこしひらけている廊下に抜ける。すぐに体勢を立て直したリヒトが、ナイフを構えて後ろから槍男に体当たりをする。ナイフは槍男の腰のあたりに刺さる。


「ギャッ!!!!」と、槍男が叫んで。


 槍男とリヒトは一塊になって、歴代の部活のトロフィーや盾が展示されているショーケースに突っ込む。ガラスが割れて、派手な音が鳴る。飛び散ったガラスの破片がヘッドライトの灯りを反射して、キラキラと光る。


 先にリヒトが立ち上がる。手にしたナイフの切っ先からは、槍男の赤黒い血が滴っている。


 リヒトに腰を刺されて頭からガラスに突っ込んだ槍男は、地面に蹲って「うう……ごめんなさい……ごめんなさい……!!」と、誰に対してなのか分からない謝罪の言葉を繰り返している。


 カンッ! と、リヒトが槍を遠くに蹴り飛ばして、槍男の襟首を掴む。「さあ……ぶっ殺してやる!!」と、叫ぶ。ナイフを振り上げる。そのリヒトの頭の後ろには、あの黒い影が、ムルムクスが渦を巻いている。


 ムルムクスは、槍男の頭の後ろではなく、リヒトの背後でグルグルと回っている。


 歓んでいる。ムルムクスは自分の思い通りに物事が運んで、それが嬉しくて歓んでいる。やっぱり、この筋書きさえもまだ、ムルムクスの想定のうちなのだ。リヒトは、ムルムクスの裏をかいたつもりで、結局ムルムクスの物語に乗せられてしまっている。物語が続くのであれば、ムルムクスにとっては死ぬのが誰であっても、誰が誰を殺すのであっても、そんなのはどうでもいいことなのだ。


「ダメ!!!!」


 わたしは背後の嶋中優子を振りほどいて走り、全力でリヒトに体当たりをする。思った以上にリヒトの身体は軽くて、簡単に吹っ飛ぶ。ナイフが床を転がる乾いた音が響く。わたしとリヒトはそれぞれに廊下の床をゴロゴロと転がる。


 顔を上げると、わたしのすぐ目の前の床にナイフが転がっていて、わたしはそれを拾い上げる。立ち上がったリヒトが「邪魔をするな、むっちゃん」と、言う。


「さあ、ナイフを渡せ。そんなもの、むっちゃんが持っていても仕方がないだろう」


 ヘッドライトの灯りを背後に背負って、こちらに手を伸ばしてくるリヒトの姿は、とても怖い。その頭の後ろでは黒々とした深い穴のような影が渦巻いている。わたしもなんとか上半身を起こすけれど、足が萎えてしまって立ち上がることができない。床に座り込んだまま、ナイフを両手で握ってリヒトに向ける。


「なんのつもりだ、むっちゃん。ナイフを向ける相手が違うだろ」

「ダメだよリヒト! そいつをぶっ殺しちゃ、ダメ! リヒトがそいつをぶっ殺しちゃったら、この物語は終わらない! それじゃたぶん、ムルムクスの思う壺だ!!」


 わたしがそう叫ぶと、リヒトはなんでもないことのように「だからなんだっていうんだ」と、答える。


「僕にとっては、この物語はこいつをぶち殺すことで終わるんだ。誰よりも大切な双子の妹を穢された復讐を遂げて、それで僕の物語は終わる。そのことで別の物語が続こうと、それで誰が何人死のうと、そんなのは僕の知ったことじゃない」


 人にはそれぞれに個別の物語があって、それらはお互いに断絶している。


 リオンが死んだ時から、リヒトはただそのためだけに動いていたのだ。物語の筋書きを潰し、ムルムクスを追い詰め、ムルムクスが苦し紛れに再びこの槍男を使わざるを得なくなるように。そうやって槍男をおびき寄せて、自分の手で殺し、復讐を遂げるために。


 なんて馬鹿な話だろう? と、わたしの頭の奥底のまだかろうじて冷静な部分が呟いている。すべての理屈がムルムクスの実在を前提としている。そんなもの、本来は存在しているわけがないのに。わたしたちの物語を俯瞰して介入してくる超常の存在なんか、実際にいるわけがないのに。


 いや、現にそいつは存在していてリヒトの頭の後ろで渦を巻いているのだから、今さらその存在じたいを否定しても仕方がないのだけれど、でも、リヒトがずっと以前からムルムクスの実在を前提として物事を考えていたということが、なにかおかしいような気がする。


 そんなのは、正常な思考回路じゃない。普通は、ムルムクスが実在しているなんていう風には考えない。その存在を、自分で観測しない限りは。つまり、実際にムルムクスの声を聞いたのでない限りは。


 リオンが死んだ直後から、リヒトはムルムクスの存在を、その時はまだムルムクスという名では呼ばれていなかったけれど、でも、なにか物語に介入している超常的なものの実在を確信していた。つまり、その時点でリヒトはすでにムルムクスを自分自身で観測していたのだろうか。


 いったい、リヒトはいつムルムクスの声を聞いたのだろう?


「さあ、こっちにナイフを寄越せ。むっちゃん」


 リヒトがわたしに歩み寄ってくる。わたしは床にへたり込んだまま、這うようにしてリヒトから逃げる。あっという間に追い詰められてしまう。リヒトが手を伸ばしてくる。そのリヒトの後ろで、槍男が槍を振り上げている。


「リヒト!! 後ろ!!!!」


 わたしが叫んで、リヒトが振り返る。振り下ろされた槍を、寸前のところでリヒトは横に跳んで躱す。


「うう……!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! やりたくない! こんなこと! ごめんなさい! ごめんなさい!!!」


 槍男は誰かに向かって謝りながら、滅茶苦茶に槍を振り回している。槍の切っ先がリヒトの腕を掠め、血が流れる。


「むっちゃん! ナイフを!!!」


 リヒトが叫ぶけれど、わたしは動けない。ナイフをリヒトに渡したら、リヒトは槍男を殺してしまうだろう。けれど、槍男にリヒトが殺されてしまうのはもっと嫌だ。


 そして、どちらに転んだところで、ムルムクスは痛くも痒くもないし、誰かが死ぬのが嬉しくて仕方がないのだ。


 どうすればいい? どうするのが正解なのだろう?


 そうやって、身動きもできないままわたしの思考がどこにも辿り着かず空転している間に、嶋中優子が後ろから槍男の頭を大きなトロフィーでぶん殴る。ゴンッ! と、鈍い音がして、槍男が膝をつく。嶋中優子は立て続けにトロフィーを槍男の頭に振り下ろす。ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! と振り下ろす。槍男が倒れて、動かなくなる。


「はあ……! はあ……! はあ……!」


 嶋中優子が大きく肩で息をしている。リヒトが立ち上がって「助かったよ、嶋中」と言うけれど、嶋中優子は「んんっ!!!」と叫んで、リヒトにもトロフィーで殴り掛かる。


「おい、なんだよ。やめろ! 嶋中!!」


 最初はそう言って、腕で嶋中優子が振り下ろすトロフィーを防いでいたリヒトも、そのうち「おいっ!!」と、嶋中優子の手をねじり上げて反撃する。嶋中優子の手からトロフィーが落ちて、リヒトが嶋中優子の腹を蹴りつける。嶋中優子は軽々と吹っ飛んでしまう。


「なんだってみんなして僕の復讐の邪魔をするんだよ。これまで散々助けてやっただろ? 最後くらい、黙って見届けてろよ」


 ゆらりゆらりと嶋中優子に歩み寄るリヒトは、こちらに背を向けている。わたしは立ち上がって嶋中優子が取り落としたトロフィーを拾い、それをリヒトの後頭部にゴンッ! と振り下ろす。膝をついたリヒトが振り返って「おい、むっ……」と、なにかを言いかけていたけれど、わたしはそれを無視してリヒトの頭にトロフィーをゴンッ! と振り下ろす。ゴンッ! ゴンッ! と、何度も振り下ろす。リヒトも床に倒れて動かなくなる。


「はあ……! はあ……! はあ……!」

「はあ……! はあ……! はあ……!」


 わたしと嶋中優子はお互いに肩で息をして、顔を見合わせる。もう槍男もリヒトも動かない。


「死んだの……?」と、嶋中優子が震える声で訊いてくる。

「たぶん、気を失っているだけで、死んではいないと思う」と、わたしは答える。


 なんとかなった気がする。


 いろいろと想定していたのとは違ってしまったけれど、かなり無茶苦茶にはなってしまったけれど、でも、なんとか許容範囲内でリカバリーできたような気がする。あとは、異常に気付いた警備員が駆け付けてくればどうにかなるはずだ。それにしても、槍男がステップワゴンで正面玄関を突き破ってきてから随分と時間が経った気がするけれど、まだ警備員はやってこないのはどういうことだろう? モタモタしすぎなんじゃないだろうか。


 でも、なにはともあれ、これで終わったのだ。

 今度こそ、誰も死なないままに木曜日は過ぎて、それで物語が終わるのだ。


 わたしがそう考えた矢先に、嶋中優子が「それじゃダメだよ、ちゃんと殺しておかないと」と、言い始める。足元に落ちているトロフィーを拾いあげる。


「そうだよね、睦深ちゃん? だって、この槍男も、吾妻くんも、いまちゃんと殺しておかないと、またわたしを殺しにくるかもしれないから」



 嶋中優子はわたしではなく、わたしには見えない別の誰かと会話をしている。嶋中優子の頭の後ろでは、黒い影が渦を巻いている。そして、暗い夜の学校の廊下にリオンがやってくる。

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