第22話 過去から

「幼い頃に従姉妹に動物園に連れ出されたことですね。そ、その時に動物の事が好きになりました」

「そうなんですか」


 なんか、普通の理由だった。


「じゃあ、その従姉妹ちゃんはカコさんのお姉さん見たいな感じなんでしょうか?」

「……と、年下です。妹みたいなものです」


 あら?

 連れ出されたって聞いたから年上を想像してたけど、どうやら年下だったみたい。


「で、でも、あの子には本当に感謝しています。両親を亡くして塞ぎ込んでいた私を一生懸命励ましてくれました。今の私があるのはほとんどあの子のおかげなんです……」

「……」


 ああああああ!!

 過程が普通じゃなかったー!!

 てか、もしかするとカコさんかなり重い過去背負ってませんかねぇ!!


「あ、り、両親をなくしたことは、い、今はそれほど気にしていませんよ!の、乗り越えました!」


 私の顔が一瞬凍り付いたのを見てカコさんが慌ててフォローしてくれた。

 でも、本人はああ言ってるけど、両親の話題は何と無く避けた方が良さそうな気がする。


「えーと、そうだ!じゃあ、その従姉妹ちゃんについて教えて下さい。どんな子なんですか?」

「わ、私と違ってとても元気な子です。凄く勇気があって、何事にも動じない意思の強い子です。元気があるところはイツキさんに少し似ているかもしれません」

「私は元気だけが取り柄ですからね!」

「フフ」


 カコさんは少し微笑んだ後にサイフォンの前で奮闘しているインパラの方へ視線を向けた。


「……因果なものですね。動物が好きでここへ来たのに、両親の遺した論文を読み直すことになるとは思いませんでした」


 で、出来れば両親の話題は避けたかったけど、致し方なしか。


「……カコさんの両親も研究者だったんですか?」

「は、はい。り、両親はサンドスターの研究をしていたんです。ど、動物のアニマルガール化がお、起きてからサンドスターについての論文を読みました。たくさん。そこに両親の遺した論文もあったんです」

「巡りめぐってカコさんの助けに……ですか。不思議なこともあるもんですね。そもそも、最近は不思議だらけで感覚が麻痺しそうですけど」


 最近だと神社の敷地に集まったサンドスター。

 あれが何だったのか分からないし、私の勘違いかもしれないと報告はしていない。

 どう報告すれば良いのかも正直分かんない。


 そうだ。

 不思議と言えば……


「話が変わるんですけど、この前アニマルガールに絵本を読んであげたんですよ。鶴の恩返し。で、その子言ったんですよ。昔からアニマルガールって居たんだって。確かに昔話って動物が人に変わる話って良くあるじゃないですか。もしかしたら、昔の日本にはアニマルガールが居たんじゃないかって思うんですよ。……やっぱ、あり得ないですかね?」


 すぐに否定されるかもと思っていたけど、カコさんから返ってきたのは意外な答えだった。


「み、民俗学的な観点からの考察ですね。さ、参考になります。たぶん。し、しかし、イツキさんの考えも強ちあり得ないとはい、言えません。少々お待ちを……」


 そう言ってカコさんはポーチからタブレットを取り出して、画面を私に見せてきた。

 なんかの線グラフっぽい。


「……これは?」

「た、大気中のサンドスター濃度の推移です。凡そ1万年前から」


 1万年前からずっとサンドスター濃度はほぼ横這いになっていて、終端になってまるで崖のように急にガクンと下がっている。


「こ、こちらがジャパリパークです」


 カコさんがタブレットを一本の直線がさっきの線グラフと重なるように出現する。


「へぇ、ほぼ同じなんですね」


 他の地域に比べて異常にサンドスター濃度が高いと言われているジャパリパークと昔の地球のサンドスター濃度がほぼ一緒だったことに驚いた。


「はい。現在、アニマルガールの出現条件として大気中のサンドスター濃度の影響が大きいのではないかと言われています。なので、条件としてはアニマルガールが出現してもおかしくはありません」


 あ、どもってない。

 カコさん、お仕事モードに入っちゃった。

 いや、今は休み中だからオタ……げふん!

 カコさんの研究者モード!


 カコさんの話的には各地で見られる動物が人に化けると言う昔話も強ちあり得ない話って訳じゃなくなるのね。


「そうなんですか。じゃあ、どうしてここ……200年前くらいから急激にサンドスター濃度が薄くなってしまったんですかね?」

「理由は不明です。詳細の解明は未だに継続中ですが……ある出来事が関連していると言われています」

「それって、何ですか?」

「産業革命です」


 つまり、サンドスター濃度が急激に下がったのは人間のせいってこと?


「……ん?でも、変じゃないですか?確か、サンドスターを利用した技術とかって最近出来たばかりですよね」

「そうです。このデータを見る限りでは産業革命が起きた時代はサンドスターを消費する手段がない筈なのに、サンドスターが急激に消費されたことになります」

「ミステリーの香りがしますね!」

「研究者も頭をな、悩ませてるみたいです……」


 話が一段落した私達はコーヒーに口を付ける。


「しーくいんさん!ついでにパフェもどう?」


 インパラを見計らってか私達にパフェはどうかと提案してくる。


「是非もらおう!」

「あ、わ、私も……」


 そして、出てきたパフェのデカさに私とカコさんは二人で一つにしておけば良かったと後悔することになる。


 カロリー消費しなくちゃあ……

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