第19話 はじめてのおかいもの

 インターンシップが終わり、私は普段通り多忙な日々へ戻っていた。


 色々あったけど、何とか終わってほっとしている。

 帰り際に男子の一人がピューマに向かって、必ずジャパリパークの職員になるって宣言していたっけ。


 ウェーイ!青春!青春!


 なお、ピューマに好きな人を聞いてみたところ、一番好きなのはしーくいんさんと言ってきた。

 花より団子、恋より食い気。

 ピューマに取ってインターンシップの例の男子は友達の一人くらいの認識でしかなかった。


 ……少年よ。強く生きろ!


 さて、今回はとあるアニマルガールを社会勉強の為に居住区へと連れてきた。


「ここが人の住んでるところなのね」


 キョロキョロと珍しそうに周囲を見渡しているのはアカギツネの亜種のギンギツネ。

 そろそろ買い物とか覚えさせたいと思って縄張りから引き摺り出してきました!!


「……で、しーくいんさんは何してる訳?」

「記念撮影。笑って笑ってー、はいチーズ」


 カシャッ!


 町の背景をバックにギンギツネが困ったようなぎこちない笑みを浮かべた写真が取れた。


 流石は日本の擬人化の王道キツネっ娘。

 様になるぅ!


 後、この子は知らないと思うけど、研究員の間だと結構人気なんだよね。

 研究対象として……


 アニマルガールで最近分かった事は基本的に一種類の動物に対して、アニマルガールは一人だけしか現れない。

 ケモプラズマが同一の個体の発生を抑制している可能性が高いみたい。


 じゃあ、個体の線引きって何処なの?


 アニマルガール化した中ではヒョウとクロヒョウと言う原種と亜種のアニマルガールがいる。

 なら、アカギツネの亜種のギンギツネがアニマルガール化したのだから、原種のアカギツネやもう一つの亜種のキタキツネもアニマルガール化するのではないかって言われてる。


 でも、ヒョウとクロヒョウは同じ母親から産まれたガチ姉妹。

 血の繋がりも関係するのかしないのか。


 つまり、色々と注目なアニマルガールがギンギツネなのです。


 ギンギツネノ写真見テ萌エテル人ハ見ナカッタ事ニシタ。


 着々と危ない人が増えてるような気はしないでもない。


「私の写真を撮りに来る人結構多いのよね……何故かしら?」

「ナゼダロウネ?開園したらもっと多くなると思うよ。今のうちに慣れといた方が良いかも」

「……慣れたくないわね」


 まぁ、写真撮影以上の変な事をしようとしたら粛清するけどね。


「ところで、今日の買い物でギンギツネは何を買ってみたい?」

「しーくいんさんが前に言ってたいなり寿司って奴を買ってみたいわね。キツネの好物なんでしょ?」

「特別好物って訳じゃないと思うけどね」


 ギンギツネは肉食傾向の強い雑食。

 余程飢えてない限りは食べようとは思わない食べ物の筈だけど、アニマルガールになって少し好みが変わったかもしれない。


 目的のスーパーに向けていざしゅっぱーつ!!


 とーちゃーく!!


「ここがスーパー……」


 初めてのスーパーに衝撃を受けるギンギツネ。

 そんなギンギツネに私は1枚の紙を渡す。


「はい、これあげる」

「これは……千円?」

「これで好きなもの買ってきて良いよ。私はここで待ってるから」

「えっ!?ついて来てくれるんじゃないの?」

「これは試練なのだよ。行けぃ!キツネっ娘よ!」

「……」


 ギンギツネは何度も私の方を振り返りながら不安そうにスーパーの中へ入っていった。


 10分後、ギンギツネはいなり寿司のパックが入った袋を片手にスーパーから出てきた。


「一人で買い物出来たじゃん。えらいえらい」


 一人で買い物出来たギンギツネの頭をなでなでしてあげる。


「も、もう!子供扱いしないでよ!こう見えても私は大人なのよ!」


 年齢一桁が何か言ってる~


「あ、おつりはお小遣いとしてあげるから」

「もう!」


 ギンギツネは顔を赤くしながら私の手を払い除けて、スタスタと明後日の方向を歩き始めてしまう。


 うん、この子王道だわ。


 しばらく、ギンギツネがぷりぷり怒りながら歩いていると、不意に何かを思い出したかのように立ち止まった。


「……ここ何処?」


 居住区トラップ発動!!

 ここに初めて来るアニマルガールの8割は道に迷ってしまうのだ!!


「ギンギツネ、一緒に行こっか?」

「はぁ……しーくいんさんは私が迷うって分かってたから付いてきたのね」

「ぶっちゃけ、ここで迷わないアニマルガールの方が珍しいからね。ついでに寮に寄ってかない?ギンギツネはまだ他のアニマルガール達と会ったことないでしょ?」

「まぁ、私以外のアニマルガールってどんな娘なのか気になるし……そうね。しーくいんさんと寮に行くわ」


 と言う訳でギンギツネと一緒に寮に向かいます!

 まぁ、寮に向かうのは始めから予定に組み込んでいたけどね。


 ギンギツネと一緒に雑談しながら寮へ向かっている最中のこと。

 それは突然起こった。


「……」


 ギンギツネがまた不意に立ち止まった。


「今度はどうしたの?」

「……呼んでる」

「え?」

「誰かが私を呼んでるわ」


 突然のオカルティックやめーや。

 でも、確かキツネの聴力って人より良いはずだし、私に聞こえないくらい小さな声だったのかも。


「こっち!」

「あ!待って!」


 ギンギツネが走り出すのを見て私も慌てて私も追い掛ける。

 100メートルくらいで直ぐに止まったから、全力ダッシュで何とかギンギツネに追い付いた。


「ここから聞こえてきたんだけど……」

「ここ?ここって……神社じゃん」


 そこは良くジャパリパークの職員が御参り等で良く使う狐を祭った神社だった。


「じんじゃ?ここって何をするところなの?」

「願い事をする場所……かな?ここで願い事をするとお稲荷さまって言う狐の神様が気紛れに願いを叶えてくれるんだよ」

「おいなりさま……」

「ちなみにお稲荷さまの好物は油揚げ。そのいなり寿司の名前の由来にもなったんだよ。たぶん」


 その辺詳しくないからちょいあやふや。

 そう言えばなんでキツネが油揚げ大好きって事になってるんだろう?

 今度、調べてみようかな。


「そうなのね。じゃあ、願い事をするにはどうしたら良いの?」

「お?やってみるかい?」

「やってみるわ」

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