見本市

町田ヤン

自殺の道

 自己の人生が破滅的にどうでもよくなり、こんなしょうもない生活捨てまえ、弩天鱈、とおもんない毎日とさようならして次期の転生先が人間道であることを願いながら前後不覚意識白濁といきたいのだが、死ぬのにも結構な工夫、意匠が必要で、そういった工夫、意匠を怠ると、非常に苦しみながら、必要以上にのたうって死にいったり、後掃除をする人間の手間も異様に複雑化し、元々要する掃除人への申し訳なさにプラスアルファーで申し訳なさが加算され、けれどもその申し訳なさを表することも既に死んでいるためできず、悔しく、最早、中元を死体の横に置いておくくらいしかないなどと狂った思慮が巡る具合であり、やはり死ぬための工夫、意匠は絶対的な必要スキルなのである。


 ではどういった死に方にどういった工夫、意匠が出来るのか。

 一に首吊り。これは元来文学的で洒落た雰囲気のある死に方である。が。実のところ、糞は垂れ流し、人体の穴という穴から血またもや糞が滲み出る陰湿不潔な死に様なのだ。このような出で立ちで掃除人を迎え入れては、自身の体のみならず、床掃除、放置時期によっては床張り替えのリフォームまで行わなければいけなくなり、人間の死に建築が介入する奇妙奇天烈な事態になってしまう。


 ではどういった工夫、意匠でそれらを回避するのか。

 首吊りを選ばなければいいのである。

 首吊りを選択しないことで、みっともない体液等の噴出を避け、更に余分なリフォーム改築がなされない為、建築業界こそ潤わないものの、使用する床資材による森林伐採、及び環境破壊を未然に防ぐことができ、地球を含めた工夫、意匠が完遂されるのだ。


 次いで飛び降り。外聞によると、高層であればあるほど、飛び降りてから早い段階で意識を失い、地面との衝突の際、著しく損傷する瞬間には何も関せずといった感じで痛みもなく死ねるらしい。ほほん、これはいいんでないの?

 駄目である。まず第一、他者の目線になったとき、突如白目を剥いた涎まみれの気色の悪い奴が頭上から降ってきたら、とても夢見が悪い。恐らくそこから食欲不振、栄養失調、脚気などに罹患するであろう。更にお子が見た場合であれば、心に傷を負い、今後白目を剥いたものを見ただけで泣き出す始末。くわあ。

 第二に、落ちた先が往来でなく人であったらとても危険である。仮に意識があったとしても、落下先の人間に危機を伝えるには、信じられんくらい大きい声で叫ぶくらいである。その信じられん大声でさえ、かえって注目を浴びてしまい、自分の衝突地点に人を集める手段になってしまうかも知れない。

 じゃあ人様に当たらぬ工夫、意匠とは。

 選ばなければよい。

 飛び降りを選択しないことで二次被害床掃除身体拾いが発生せず、又、飛び降りに使用する高層ビルの風評被害、デパート等であれば不買運動シュプレヒコールも起こらず、経済を取り込んだ工夫、意匠が可能なのである。


 その他にも、合わせ洗剤、練炭車、過剰服薬、土食い等があるが、どれもどこかしらしょうもなさ、おもんなさ、けったいさがあり、それらを解消する工夫、意匠を執り行うと、選択しない、に行き着く。そして至る今現在、死ぬることが全くもって出来ないままで、円滑に死ぬための、工夫、意匠が、崩落、もしや俺は、死に様にケチつけて死のうとしていない、朝六時四十七分俺生きがいを見つけて、世間は日が昇っていく。工夫、意匠ってなんぞや。

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