第15話 後悔

「はぁ……やっちまった」


 風呂から上がった後も罪悪感は消えなかった。付き合っているとはいえ出会って数日の女子の胸をもみし抱くという行為をしてしまったのだ。あいつは気にしてないかもしれないが俺にとっては物凄くデリケートな問題だ。


「あがったよー」


「おーう、結構声大きかった……ってお前下!」


 風呂からあがってきた桃ヶ池は何故かズボンをはいておらずシャツ一枚の姿だった。一応大事な部分はシャツの裾で隠れているものの、少し動いたら見えてしまいそうでドキドキしてしまう。俺、確か上と下セットで置いた筈だよな!?


「んー? あーズボンのサイズ合わないからシャツだけ着た。ワンピースっぽいし別に問題ないでしょ?」


「あのなぁ……もう少しデリカシーを」


「それ、主様が言っちゃう?」


「……」


「まあ、下着はちゃんと履いてるから安心してよ」


 桃ヶ池の反論に返す言葉が出ない。確かにさっき、あんな事しておいてデリカシーもクソもないよなぁ。でも下着を履いていてもその格好はよくないと思う、なんというか……えっちぃ、どこぞの殺し屋がいいそうなセリフが脳裏によぎった。


「それよりお菓子とか食べない? ひとまず落ち着こ」


「そ、そうだな……さっきコンビニで色々買ってきたやつ食べるか」


 リビングでお菓子を広げ色々とつまみ出す。お菓子の中には始めて買った物もあるためちょっと楽しみだった。こんな気づかいも出来るんだなお前。


「んむんむ……あ、関西だし醤油おいしい」


「マジか、始めて買ったから味知らないんだよな」


 普通のポテチともう一つ、関西だし醤油味、というのを買っていた。コンビニで見たとき面白そうな味だと思って買ったのだが案外好評なようだ。たまには冒険するのも悪くない。


「はい、あーん」


「……いや、直接とれ」


「あーん」


「……わかったよ」


 圧に負け大人しく桃ヶ池からあーんされる。親以外からあーんされるのは始めてなので、俺は物凄く緊張した。それでも悪くないな、あーんって……


「んっ、うまい」


「いいよね、もう一袋買えばよかったなーこれ」


「また買ってくるかぁ」


 そして、肝心のポテチの味は……うまかった。だし醤油の味が絶妙で口の中に広がり、そして、また食べたくなる謎の感覚が俺を襲う。やめられない、とまらないとはまさにこの事かもしれない。


「ねぇ、暇だしテレビでも見ない? 録画とかアマプラとか何かあるでしょ?」


「そうだな……アマゾンズ以外ならいいぞ」


「ちえーアマゾンズ見たかったのになー」


「アマプラ入ってるなら家で見ろよ……」


 どんだけアマゾンズ見たいんだお前。こんな時にアマゾンズとかただでさえ重い空気がバイオレントパニッシュするわ。


「お、デスマあるじゃん。まだ見てなかったんだよねこれ」


「俺も録るだけで見てなかったなぁ、見るか」


「そうしよ」


 桃ヶ池の提案で録画していたデスマを見ることにした。デスマはコミカライズでしか読んだ事ないがアニメの方はどのような出来になっているのだろうか。そこら辺含めても俺は楽しみだった。




「……ボーッと見るにはちょうどいいねこれ」


「そうだな、あまり考えなくていい作品は割と好きだわ」


「わかる、考察系もいいけどたまにはこういうのも悪くないよね」


 一話を見終わり感想を言い合う。内容としてはまあ割とよかった。桃ヶ池の言うとおり考えずにボーッと見る分にはこのアニメはかなり楽しめると思う。二話も録っているし早く見る事にしよう。


「……ねえ、さっきの事まだ気にしてる?」


「まあな……」


 デスマの二話を再生しようとした時、桃ヶ池の言葉に手の動きが止まる。やはりその話題からは逃げられない、いや逃げてはいけない。俺は今一度のその責任を重く受け止めた。


「気にしなくても……って言っても主様にとってはダメなんだよね」


「そりゃな……出会って数日の女の子を襲ったんだから……」


「ねえ、それって出会ったのが1ヶ月とか期間が長かったらいいの?」


「別に……そういうわけじゃ」


 期間とかは関係ないだろう。どれだけ信頼を重ねていても女の子のデリケートな部分をいきなり触るなんて最低だ。理由やこじつけとかでごまかしてはいけない事だと俺は思う。


「それに襲ったって言っても誘ったのはボクだよ? 主様が気にする必要はない」


「それでもやめることは出来た筈だ。なのに俺は欲望に任せ、お前を……!」


 やってしまった、その後悔が俺を襲っている。あの時火照った桃ヶ池を見て、俺は頭が真っ白になった。取り返しのつかない事をしたのではないか? この先どう責任を取ればいいのか? 


「そっか……なんとなくわかったよ。主様の気持ちが」


「俺の……気持ち?」


「怖いんだよね、自分でなくなる事が」


 ズドン、と的を射られたような感覚が胸にきた。自分でなくなる……それは誰よりも桃ヶ池が一番理解している事。その事実を桃ヶ池に告げられるという事がどれをほどの意味を持っているのか、俺にはわかっていた筈だ。

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