懸賞に応募したらリアル彼女が当選してしまった件。

早乙女らいか

第1話 彼・女・当・選

「でさー、もうちょいで東都侵略されそうだったしヤバいよな、あの展開」


「ねえねえ、冴子。今度アニカフェ行かない? ちょっと欲しいコースターあるんだけど……」


「やべー次の授業クソダルいんだけど……」


 昼休み、周りの生徒が自由に喋っている中、俺こと柏原かしわはら陽太ひなたは一人、黙々とスマホの音ゲーをしていた。友達こそいないが一人でも十分、休み時間は堪能出来る。それに友達といると話を合わせたり、周りの行く場所につき合ったり、SNSの返信うんぬんでトラブルが起きたり、とロクな事が無い。そう、俺は友達作りに失敗した訳では無く、好きで一人でいるのだ。


「あーワンミスした……最悪」


 少し別の事を考えていたせいかタイミングがズレてしまい、フルコンを逃してしまった。こういう惜しい時程イライラしてしまう。俺は、もうこれ以上やりたくないなと思い、アプリを切り替えて残りの時間を潰す事にした。


キーンコーン


『あ、チャイム鳴った。やべー次体育じゃん。』 


『マジか、ならさっさと行ってこいよ。じゃーなー』


 チャイムが鳴り響き、それぞれが次の授業の準備に取りかかる。だが俺は5分前から用意して為、何もしなくていい。今日も一人、明日も一人、それが俺の学校生活。だがスマホがあるから別に退屈はしていないし誰かに因縁を付けられてる訳でもない。この学校でも珍しい、たった一人の学校生活を俺は満喫しているのだ。あ、いつも一人でいる奴、もう一人いたわ。


「桃ヶ池桃華さん」


「……はい」


 やや小さい声で返事をした女子生徒。彼女こそ桃ヶ池ももがいけ桃華ももかでありこのクラスでも珍しい、いつも一人でいる生徒だ。長く綺麗な黒髪に整った顔立ち、そして清楚で物静かな印象。容姿ならこの学校でもかなりレベルの高い部類に入ると思うのだが、何故かいつも一人でいる。それも俺みたいにスマホを弄ったりせず、また本を読んでいるわけでも無くいつもただボーっとしている。何というか不思議な奴という印象を受けた。


「正解、ここ難しいのによく出来たな」


「いえ……」


 と、言っても勉強は出来るし必要最低限の言葉は喋る、日常生活になんら支障は来していない。ただ、不思議なのだ彼女は。まあ、俺が彼女と関わる機会は殆ど無いし気にする事でも無いだろう。俺は誰かに話しかけに行くタイプでも無いし彼女も恐らくそう。


何の接点も無いまま学校生活を終える。何の面白みも無さそうだがこれでいいのかもしれないな。




「……ん?」


 特にやる事も無い土曜の昼時。暇潰しに自室でネットサーフィンをしていると少し気になる記事を発見した。


『一等はなんと彼女! 春のスペシャルサービス懸賞開催!』


 懸賞の中身は話題のゲーム機や旅行券等、なかなか豪華なラインナップが揃っていた。しかしそれらを差し置いて一等は彼女。馬鹿馬鹿しい。こんなの住所目当ての詐欺に決まってる。と、思い開催している企業名を調べてみた。すると意外な事実が判明。


「スマブレカンパニーってかなりの大手じゃねえか……」


 開催していたのはなんと電子工業の発展に貢献し、今も世界有数の技術力を保持しているスマブレカンパニーという超大手企業だった。しかし詐欺だと思っていたがこんな大手がやるとなれば信憑性が増す。丁度、懸賞に参加する為の応募条件を満たしているし試しにやってみるか。


「必要事項を入力っと……ん? なんだこの項目」


 項目を進めていると『あなたが思い描く理想の彼女像を書いてください』という項目が現れた。

 ほーん、なるほど。確かこの会社仮想空間の技術とか開発していたな。きっと一等の彼女というのはその技術を生かしたバーチャルな彼女の事だろう。しかし一等だ。ソシャゲで石を溶かしつくす(課金込み)くらいしなければ推しのキャラが当たらない、俺には夢のような話だ。俺は気持ちを落ち着かせ、PCのデータからある物を引っ張り出した。


「懐かしいなぁ……」


 画面を見た途端しみじみとしてしまう。それはかつて小説投稿サイトに投稿しようと思っていた、小説に登場するキャラ設定だった。かつては俺も最高の物語を書いてやる! と、意気込んでいた。しかし結局、世界観とかの構成に苦労し遂に飽きて諦めたというオチに終わったが。


「主人公は世界で一番好きな人……ドMでビッチで淫乱……おまけに主人公の事を主様って呼ぶってひでぇな……」


 俺はそこからいくつかの設定を引っ張り出し、概要覧に入力し始めた。今、見るとかなり痛々しい設定の数々だが、どうせ当たる訳が無いし大丈夫。そしてある程度項目を埋め、応募を終わらせた。


「ま、どうせ一等どころか何も当たらないってオチだろうし期待しないでおくか」


 入力を終えた俺はネットサーフィンに戻り、何も無い休日の時間を消費していった。休日だからといって何か外出て遊びたいって程、俺はアウトドアな人間じゃない。インドア否定派のパンピーは帰れ。


 しかしこの時入力した設定の数々が俺、柏原陽太の平凡な日常を崩壊させる大きな原因になるとは思いもしなかった。




「初めまして、柏原陽太さんですね?」


「…………はぁ、そうですが」


 あれから3ヶ月が経過したとある休日。インターホンがなったので玄関を出ると、扉の先に俺と同じ年齢くらいのピンク髪の美少女がいた。身長こそ俺より少し低いが容姿端麗でそこら辺の女子と比べてもかなりレベルの高い部類。服装はフード付きのトレーナーとフリフリのミニスカートと可愛らしく格好。おまけに首にはチョーカーを付けており、それが彼女に妖艶さを引き出させていた。

 しかし怖いな。最近の勧誘はこんな美少女を使うとは思わなかった。この女に勧誘されホイホイと乗ってしまった男は、今まで何人いるのだろうか。

 だが、俺は違う。こういうハニートラップに引っかかって人生を損した奴を何人もネットでみた。

 この場合はすぐ断り、すぐ扉を閉める。これに限るな。


「あー、勧誘の方ですか? すみませんねぇ家、勧誘全て断っているんですよ。では、そういう事で……」


 それだけ言うと俺は扉を閉める動作に移った。流れるような作業、完璧だ。


「待ってください。私、別に勧誘とかじゃないですよ」


「え?」


 扉を閉めるのを止める。勧誘では無い? なら、彼女は何のために家に来たのか。


「では要件を。柏原陽太さんおめでとうございます。あなたは一等である彼女に見事、当選しました」


「…………え?」


 一等? 彼女? 俺が? 急に入ってくる情報量に俺は頭がこんがらがりそうになる。まて、ここは一旦深呼吸して心を落ち着かせよう、すーはーすーはー……よし落ち着いた。


「一等って俺なんか応募してたっけ?」


「あれ、忘れちゃってます? 3ヶ月前、スマブレカンパニーの懸賞に応募しませんでした?」


「3ヶ月……スマブレ……!」


 ああ、思い出したぞ! 確かネットサーフィンやってる時、偶然見つけた奴だ! 心の中のモヤモヤが一気に晴れ、逆に一等が当選したという実感が沸いてくる。いやーしかし、マジで当たるとは。やっぱこういうのって無欲な程、当たりやすいって事なのかな。


「てことはバーチャル彼女を届けに来たって事か! いやー、さっきは邪険にしてごめんなさいね。あ、今すぐ印鑑持ってくるんで少々……」 


「バーチャル……? 何を言ってるのですか? それに印鑑なんて必要ありませんよ」


 え? バーチャルじゃない? そう言えば彼女はスマホや財布等、必要最低限の手荷物しか持っていない。肝心の景品らしき物がどこにも無いのだ。


「それじゃ一等の彼女はどこに……?」


「もうここにありますよ」


 ここにある? なら、ちゃんと届けに来たという事なのか? うーむ、ますますわからなくなってきた。


「だからどこにあるんです? それともあれですか。プレゼントはわ・た・し♡ とか団地妻がやりそうな事じゃ……」


「そうですけど」


「は?」


 マジ? まさかこんなご時世にそんなベッタベタなオチがあると? しかし彼女は真面目な顔でそう答えた。なら本当に……


「……当選した彼女ってあなた?」


「その通りですよ、柏原陽太さん」


「え、彼女があなた? まって状況が……」


「では要件は以上です。次は彼女として学校でお会いしましょう。主様♡」


 主様、という聞き慣れない単語を言い終わった後、彼女は足早に去っていった。……待て一回状況を整理しよう。インターホンに出たら、目の前に美少女が現れまして、そしたら彼女が当選したと言い、その彼女は実は私でしたーと、ふーむなるほど……


「いや、納得出来ねえええええええええええええ!?」


 懸賞に応募したらリアル彼女が当選してしまった件。


 自分で言っといてアレだが、何これマジで意味分かんねえぞ。

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