5日目

私が実はその小説私が書いてるんだと言おうとしたら、丁度よく敦君のお母さんが入ってきたため言うことができなかった。

私が、なにか言いかけた言葉の続きが気になったのか敦君はこう聞いてきた。

「今なにか言いかけたなかった?」

と。これは、言うチャンスだと思った。でも、さっきはすぐにでも言えそうだったのに今は何故か無性にその小説を書いているということを言うことが恥ずかしくなっていた。

「……な、なんでないよ」

だから、こうしてはぐらかしてしまった。

「そう。ならいいけど………でさ、お母さんの作るお菓子美味しいから、是非いっぱい食べていってよ」

実はさっき食べたのだけれど、敦君がもの凄く目をキラキラしながら言うもんだから、さっき食べたよというわけにはいかず、

「……そうだね、美味しそう」

「そうだろ。お母さんが作るクッキーは、世界一だからな」

敦君が、ヤンチャな男の子のような笑顔でそう言ってきた。

………お母さん、凄く息子さんから愛されてますね

私はとても羨ましく感じた。敦君にここまで愛されているということに。

「そうなんだ」

それから、私はしばらくの間無言で、クッキーを食べた。

そのクッキーは、さっきリビングで食べたクッキーとは味が変わっていた。

……これが、お母さんの愛なのかな?

「そういえば、神林も小説読んだりするのか?」

「読むよ」

「そう。それって、紙で読む?それとも電子書籍?」

「私は、紙で読むかな」

「俺と一緒だな。実は、俺も小説は紙で読む方が好きなんだよな」

「そ、そうなんだ。理由は?」

「紙がいい理由?」

「そう」

「理由なんて簡単だよ。紙の方が読書をしているって感じることができるからね」

「それは、解るかも」

「それに、俺たち高校生だろ。だから、学校で本を読もうとしたら、電子書籍だと読めないだろ」

「そうだね」

「だから、俺が紙の方好きなんだよね」

「じゃあ、なんでネット小説を読むようになったの?」

私は、今の話を聞いて気になったことを聞いてみた。

「ああ、そうだよな。紙の方が好きって言っているのに、なんでネット小説を読んでいるのか気になるよね」

敦君は、どこか自嘲気味にそう言った。

「俺が、ネット小説を読んでいる理由はね、今家にある本全部読み終わっちゃってさ、ここから書店って遠いところにあるでしょ。だから、行くのが少し面倒でさ、それなら電子書籍で買えばいいじゃんって思うかもしれないけどさ、電子書籍で本買うくらいなら、俺は紙の本が買いたいからさ、お金も時間もかからないネット小説を読んでいるわけ」

「そっか。そういうこと」

私の地域には、あまり書店がない。

さっき敦君が言ったように最寄りの書店でも40分は歩かないといけない。

「それでさ、ネット小説を読み始めたらさ、はまっちゃってさ。さっきも言ったけど、ネット小説は、一気にいろいろな人たちが書いた小説が投稿されるだろ。だから、いっぱいの小説が存在する。そのひとつひとつの小説には、作者の想いが少なからず詰まっている。そして、いろいろな考えを見ることができるからね。無料で」

「そう、じゃあ、もう紙の方は読まないの?」

「読むよ。確かに、ネット小説はたくさんの小説を読めるよ。でも、多くのネット小説の場合連載中でしょ。その連載中って言うのさ。続くかもしれないし、作者の事情によって続かないかもしれない。でも、紙の方だとどうかな?紙の方は、もう1つの"本"として完成している。そりゃまあ、打ちきりとかはあるけどさ。

えーと、つまりなにがいいたいのかって言うとさ、紙の小説、ネット小説の両方ともそれぞれ良さがあるんだから、読まないってことはないと思うよ」

私は素直に嬉しかった。

ネット小説にはまっちゃってと言われた時私は、悲しいと思った。

もう、紙の方は読んでくれないんじゃないかって。でも、敦君は、紙の方も読むと言ってくれたそれが嬉しかった。

「そう…………えーとね、笑わないで聞いてくれる?」

「なにを?」

「今から私の言うことを聞いても」

「それは、わかんないかな。神林が言うことが面白かった笑うかもしれないし、笑わないかもしれないから」

敦君が、正直にそう答えてくれた。

………ここは、笑わないよって言って欲しかったな。

実を言うと私は、笑わないでよと言ってそれで彼が笑わないって言って、でもそれなのに彼は笑ってそれで、笑わないって言ったじゃん!とか、よく小説とかであるくだりをやりたかったのだけど…………それに、笑わなかったら意味がないことなのだから仕方がないかな。

「敦君が、面白いって言った小説あるでしょ。それね、実は私が書いたものなんだっ!」

「え?それって本当?」

敦君は笑わなかった。

………というか、私が小説書いているってこと言ったくらいで笑うわけがないか。

「本当だよ。私が、君が私の想いに気づくまでを書いているよ」

「それは、驚いた………」

「それで、始めの話に戻すんだけどさ、敦君は"愛"についてどう思う?」

私は、そう再び彼に聞いた。

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