女子のお泊り会って、それほどいいもんじゃない

 玄関を開けると母親が出迎えてくれた。


「今晩は、突然すみません」

「いえいえ。いつも叶太かのうたがお世話になってます。


 母親が僕の名前を口に出したので慌てて遮り、2人を紹介する。


「久内さんと萱野さん。うちの母親」


 女子2人はほわほわした母親の笑顔につられてか、僕の名前を聞いてなのかはわからないけれども、にやにやして愛想を振り続ける。


叶太かのうたくんには本当にいつも助けて貰ってるんですよー」

叶太かのうたくんは親切で。ねー?」

「ね、叶太かのうたくん?」

「叶太カノウタ言わないでくれる」

「えー、いい名前なのにー」


 僕は女子2人を無視し、母親に確認する。


「父さんは?」

「昨日から東京に出張中。今日も遅くまでかかるから戻るのは明日だって」


 ほっ、とする。とりあえず女子2人を泊める座敷に案内する。


「畳の部屋、仏間とここしかなくて。後で布団出すから。じゃ」

「矢部ちゃん、待ってよ」

「ああ、ごめん。お風呂も今沸かすから。順番に入ってね」

「そうじゃなくって、1人だけぐっすり寝る気でいない?」

「ええ?」


 カヤノンもにやにやする。


「そうだよ矢部っち。今夜は語り明かすぞー!」

「今さら何を語るんだよ」

「文学論」

「あと、矢部ちゃんの初恋のこととか」


 勘弁してほしい。




 結局解放されたのは午前3時。女子2人が寝入ってからだった。

 少女、とまだ呼べる女子の寝顔を見たら少しはときめくものだろうけれども、この2人に関してはまったくない。親しすぎるからだろう。ときめかないどころか、僕は2人の寝起きの顔を見て更に厳しく対応する。


「ほら、2人とも、早く起きてよ」


 久内さんもカヤノンもTシャツ姿で布団の中でもぞもぞと蠢いている。


「えー。まだ9時じゃなーい。約束は1時だから大丈夫だよー」

「そうじゃなくて」


 久内さん。そうじゃなくて。僕は父親が帰る前に家を出たいんだよ。

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