東京行くけどアキバじゃないよ

「遅いっ!」


 始発の新幹線ぎりぎりの時間にホームに駆け込んだ。

 久内さんと僕はカヤノンに叱り飛ばされた。


「まったく・・・2人とも、寝坊?」

「や・・・夕べ投稿するのに思いがけず時間かかっちゃって」

「わたしも」

「新幹線の中で書こうとか思わなかったの?」

「投稿ボタン押すときに気付いた」


 今日は3人で東京へ行く。新幹線が延線したお蔭で片道2時間ちょっとで行けるようになった。

 ありがたい。


 さて、大学生とはいえ、高校を出て2か月ちょっと。まだ18歳の少年少女たる僕らの目的は秋葉原でも東京ビッグサイトでもない。

 東京駅八重洲、神保町、池袋。

 

 何があるのか。


 本屋さんだ。


 神保町は言うまでもない本の街だ。そして東京八重洲、池袋にはメガ書店がある。規模がメガなだけじゃない。センスが違うのだ。

 残念ながら地方にいくら巨大資本の本屋が進出しようとも、東京に立地するこれらの店舗には勝てない。


「でも、カヤノンはどうしてリアル店舗に行く必要があるの? 電子書籍しか買わないのに」

「本屋で物色した商品をネットで買うんだよ」

「ひでー」

「ひどくないよ。だって出版社を儲けさせないと、リアル書店だって潰れちゃうでしょ」

「そりゃ確かに」

「でも、商品って言い切るところがすごいよね、カヤノンは」

「久内、甘いよ」

「なによカヤノン。わたしが甘いって」

「いい? わたしはお金も払うけど、自分の人生の内の数時間をも払うのよ」

「う・・・ん」

「ドストエフスキーのカラマーゾフの兄弟なんか、3晩完徹して読んだ。そのまんまで学校行ってバイトして。でも、それだけの価値ある素晴らしい作品だった」

「う・・・」

「甘いのよ、久内も矢部っちも。そんなんだから賞に届かないし、いつまでもアマチュアなのよ」

「おっしゃる通りです」


 東京までカヤノンの小言は続いた。

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