散歩生活

石嶺 経

播磨坂

 いつも通り上野を出発し、谷中を通ったのは覚えている。池袋を目指していたので何となく西に向かってはいたのだが、面白そうな道があればその度に方向を変えるのでとても最短距離で向かっていたとは言えない。

 その日は小雨が降っていて、時折雪に変わり私の傘を叩くのであった。私は傘が好きだ。差せばそこには自分だけの空間が出来上がる。差さずとも、私はいつでも自分の空間を切り出せるのだという愉快な気分になる。

 そんな愉快な気分で歩いていたら播磨坂に辿り着いた。坂の上とも下とも言えぬ中途半端なところに出たので、少し悩んで坂を下り千川通りに出ることにした。するとどうだろうか。雪が降る中を一本だけ桜が咲いているではないか。ソメイヨシノかと思ったがどうも違う。親切にもプレートを下げており、カワツザクラと書いてあった。序に早咲きであるということも書いていたのだが、いくらなんでも早いのではないだろうか。

 数分の間、桜を眺めていたが人が通ったので気恥ずかしくなってやめた。池袋では書店に立ち寄ろうと思っていたが、その日はなんだか満たされていたので池袋に行くだけ行ってそのまま帰ってしまった。帰りの電車はやたらと混んでいた。

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