最強は、最高ぅ!!

 侵略する者インベーダー警報とか、久しぶりすぎだろ。


侵略する者インベーダー顕現にともない、歓楽の島に避難命令が発令されました』


 蜥奕族せきえきぞくの血が騒ぐぜ。

 もともと蜥奕族せきえきぞくは、血の気の多い戦闘民族。そのせいで、故郷の世界が滅んじまったらしいけど、それは俺のひいじいちゃんの頃の昔話。


 尻尾の先までたぎるぜ。

 バシンバシン尻尾で床を叩いて次の情報を待ってると、ラッセの硬い頭が勢いよく下顎に命中した。


いてぇ……なにすんだよ」


「ダル、さっさと避難するよ」


「は?」


 避難とか、意味わかんね。

 この街の奴らは、亜空間転移ハロ式が用意されている避難所に、急げばいい。

 けど、俺は違う。戦闘民族、蜥奕族せきえきぞくのダルだぜ。


 顎をさすりながら首をひねっていると、ウノのウォーターボールがずいっと急接近してきた。


『だから、貴様は脳筋なのだ。今は、リンもいるのだぞ。その上、我らは今日すでにカテゴリー2の闇の暈ダークハロを消滅させている。侵略する者インベーダーとやりあうなど、無謀も無謀。避難するが、最善である』


「は?」


 というか、リンならさっきアルゴ995号の案内で避難完了してるじゃないか。

 意味わかんね。


侵略する者インベーダー撃退は、あたしたちの仕事じゃないの! なんで、そんなこともわかないかなぁ」


「わっ」


 ラッセの目が赤く光ったと思ったら、俺の後ろの壁に穴があいた。危うく丸焦げになるところだった。あぶねー。

 つか、なんで、ごちゃごちゃ言われなきゃなんねぇんだよ。


「けど、俺の血が騒ぐんだよ。お前らは避難すればいいだろ。そうだよ、仕事じゃねぇし。何をしても俺の勝手だろ!」


「ちょ、ダル!!」


 ラッセとウノが、まだ何か言ってるけど知るか。

 尻尾の先までたぎってる俺は、誰にも止められない。


「最高かよ」


 外に飛び出すと、防壁ハロ式はまだ歓楽の島を覆っていない。

 夜の大いなる暈グレートハロが浮かぶ空を見上げれば、侵略する者インベーダーらしき影がいくつも浮かんでいる。


「あれか。飛行ハロ式発動」


 避難に急ぐ人々の頭の上に飛び上がる。


「ダル!!」


 下からリンの声がした。


 まだ、避難完了していなかったらしい。

 青くなったアルゴ995号が、ブルブルと震えながら彼女のそばを離れて目の前に飛んできた。


『あわわわ……駄目ですよ。ダルは、阻止する者ブロッカーなんですか……ふぎゃ』


「うるせーよ。お前はリンを連れて、さっさと避難しろよ」


 すぐにとっ捕まえて、リンの方に投げる。


『あわわわわわ!! ダル、無茶ですよぉおおお!!』


「はいはい。灰色の男グレイマンが来る前に、やるんじゃねぇか」


 わかってる。

 侵略する者インベーダーに対抗できるハロ使いは限られている。


 自然発生の闇の暈ダークハロの転移じゃなくて、どこかの異界からの侵略転移。

 まれにあるんだよ。

 ハロワールドにも、俺たちハロ使いとは別に、不思議な目に見えない力を使える奴らもいる。そんな奴らの話じゃ、異界に渡る方法があるらしい。中には、異界に侵略しようとした奴らもいるって話。

 たぶん、そんな奴らがハロワールドに侵略しようとか馬鹿なことしてるんだ。


 こっちは、巡る円環の変態頭脳アルゴの防衛システムがしっかりしてるんだよ。


栄光の暈グローリーハロ、左腕集束ハロ式発動!」


 金色に光る拳を握りしめる。


 空に浮かぶ歪な頭で、ポコポコ胸を叩きながら降下してくる侵略する者インベーダーに武器らしきものはみあたらない。

 黒光りする剛毛に、ごっつい体。


「なかなか、いかつい顔してんじゃん」


 島の外周から展開されてきた防壁ハロ式が完全に閉じる前に、飛び出す。


「ウッホ」


「ウホ」


「ウホォ」


 降下してた侵略する者インベーダーが、栄光の暈グローリーハロの金色の光の防壁に、戸惑ってためらっているようだった。


 防壁ハロ式は、はっきり言ってもろい。見かけ倒しの時間稼ぎ。


 それにしても、奴ら、俺に気がついていないのか。


 ラッキー。

 これは、チャンスだ。


「左腕集束ハロ式、刀剣ソード展開」


 侵略する者インベーダーは、全部で百人くらい。


「ウッホ」


「ウホウホ」


「ウホッ」


「ウホーイ」


 奴らも俺に気がついたようだが、こっちは負ける気がしねぇ。


「ウホウホ、うっせーよ」


 左腕から伸びる栄光の暈グローリーハロの剣を大きく横に薙ぐ。


「ちょーすげーヤバイ栄光の暈グローリーハロウェーブ、いっけぇえええ、ええっ」


 大いなる暈グレートハロを背にウホウホしていた侵略する者インベーダーの中で体格がいい奴が、ちょーすげーヤバイ栄光の暈グローリーハロウェーブに向かって急降下してきた。


「なんで避けねーんだよ」


 秘密の特訓で取得した、ちょーすげーヤバイ栄光の暈グローリーハロウェーブは、海木かいぼくを百本切り倒すくらいすげーのに、なんでこっちに向かってきてんだよ。


「ウッホ!!」


 急降下しながらダムと両手で胸板を叩いた衝撃波で、俺のちょすげーヤバイ栄光の暈グローリーハロウェーブが消滅した。


「まじ……?」


 ちょ、俺……


「ウホォオオオ!!」


 まだ俺めがけて急降下してくる侵略する者インベーダーから逃げなきゃってわかってるのに、怖くて動けない。


 侵略する者インベーダーが、両手を組み合わせて頭の上に振り上げる。


 俺、死ぬのかな。

 死んで、ハロに還るのかな。

 考える余裕なんてないはずなのに、じいちゃんの話とか、仲間のこととか、どうでもいいことばかり頭の中で考えてしまう。


 こんなことなら、もっと食べていればよかった。


 それから、それから、それから、俺も灰色の男グレイマンみたいに、最強のハロ使いに…………


「消えろ」


「ウ……」


 侵略する者インベーダーが、消えた。


 そのかわり、忽然と現れたのは、灰色のマントの男。


「ゴリラもどき、か」


 夜の大いなる暈グレートハロを足元にして、逆さまに立つ最強のハロ使い。


 カッコよすぎて、もう無理。


 尻尾の先まで震えるくらい、カッコよすぎる。


「ウッホ」


「ウホウホ」


 ポコポコウホウホ、うるせーよ。


 俺のあこがれの灰色の男グレイマンが眼の前にいるんだぜ。

 最高かよ。


 つか、待ってたんだよ。


 もうさ、もう、もうもうもう……


「……死ねる」


「……死ねん」


 やべぇ、灰色の男グレイマンと声がかぶった。


 マジで、興奮する。


「おい、蜥奕族せきえきぞくハロ使い」


「は、はいっ」


 灰色の男グレイマンが俺をくれた。

 目深に被ったフードの奥から、ほんの少しだけ灰色の目が見えた。


 最強のハロ使いが、俺に声をかけてくれた。見てくれた。


「死んでもいい」


「おい。ハロ使い、防壁まで下がってろ」


 尻尾の先までしびれるぜ。

 ウホウホもポコポコも気にならねぇぜ。


「おい、俺は機嫌が悪い。巻き込まれたくなれば、下がれ」


「は、はいっ!」


 防壁まで下がる前に、せめて俺の名前だけでも覚えてもらおうって振り返ったら、もう灰色の男グレイマンはいなかった。


 栄光の暈グローリーハロの防壁まで下がって、見上げると、侵略する者インベーダーのむこうに灰色の男グレイマンが逆さまに立っていた。


「ウッホ」


「ウホウホ」


「ウッホッ」


 侵略する者インベーダーたちも、灰色の男グレイマンを倒すべき相手だと認識したらしい。


「やっちまえ! 灰色の男グレイマン!!」


 俺の声援が届いたみたいで、灰色の男グレイマンの足元に闇の暈ダークハロが顕現した。


 最強のハロ使いで巡る円環の三賢者の一人、灰色の男グレイマン闇の暈ダークハロを意図的に顕現させられる数少ないハロ使い。


 俺もいつか、あんな風になるんだ。


「ウホォオオオオオオオオオ!!」


 侵略する者インベーダーどもが一斉に、灰色の男グレイマンにボコボコ胸板を叩きながら向かっていく。


 カテゴリー1の闇の暈ダークハロは、転移可能状態。


「ふん、ゴリラもどきに、殺してもらうわけにはいかないんでね」


 灰色の男グレイマンは、侵略する者インベーダーに向かって軽く片手を手を伸ばした。


 そして、灰色の男グレイマンの歌声が聞こえてきた。


Hush-a-byeねんねんころりよ, babyあかちゃん, On the tree topゆりかごは木のてっぺん


「ウホ?」


「ウホウホ……」


 侵略する者インベーダーの黒光りする体を、栄光の暈グローリーハロの金色の光の輪で次々と拘束されていく。


When the wind blows 風が吹けばthe cradle will rockゆりかご揺れる;

When the bough breaks強く吹けば the cradle will fallゆりかご落ちる


「ウホッ?」


 灰色の男グレイマンの手から伸びた金色の栄光の暈グローリーハロの百あまりの縄が、侵略する者インベーダーを拘束する光の輪とつながる。


 戸惑っている侵略する者インベーダーどものマヌケな顔ときたら、さいこうじゃねぇか。


「Down will come baby, cradle, and allあかちゃん、ゆりかご、もろともに


「ウホォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 灰色の男グレイマンが手を下ろすと、その光の縄に引っ張られて侵略する者インベーダーが彼の足元の闇の暈ダークハロに落ちていく。


 あっという間だった。


 侵略する者インベーダーたちを、全部飲みこんだ途端、闇の暈ダークハロは消滅した。


 本当に、あっという間だった。


「最強は、最高ぅうううう!!」


 灰色の男グレイマンも消えてしまったけど、そんなのはいい。


 俺に声かけてくれたし、尻尾の先までまだ興奮してるぜ。


「あぁ、もう、最高すぎて死にたい」


 どこに隠れていたのか知らないけど、魚たちも戻ってきてる。


 それから、トビーの羽音も聞こえてきた。




 バクリ

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