第12話 ドキドキ! 校門前!

 校門前-


「今日は、遅刻せずに来れたね?」

「6時起きで早めに来たしな」


 あー、うむ……、途中で一度目が醒めたせいか、まだねみー。


「んー……、眠いね。朝1回シたから、スッキリはしたけど……」


 ああ、そういえば、それもあったか。


「もう少し、寝ててもよかったかな?」

「いや」


 多分、そうしたら、2回戦やってたよな。

 ……という言葉を吐くまでもなく、ゆーとも察してたようで。

 お互いに顔を見合わせて、苦笑し合う。

 ああ、苦笑する顔もカワイイな、こいつ。


 そんな時だ。


「えいおー、えいお、えいお、えいおー」

「……はっひ、はっひ、はっ、ひっひっ」


 稲田先輩が、タイヤを引っ張りながら、ノロノロと走ってきた。

 まだ4月なのに、制服は汗塗れで、顔には死相。

 タイヤ上にはジャージ姿の妙子先輩、例の半眼で間延びした声援を送ってる。


「……また、何かやらかしたんスか?」

「やあ~~~~~~~って、ねえ、よお、げほっ、ごほっ」


 俺たちに気づき、立ち止まると、そのままゾンビのように崩れ落ちる稲田先輩。


「んー……、稲田、もう、ここで替わろ?」

「だ、……大丈夫、って、んだ、ろぉぉぉ、ぐえほ」

「え、えっと、……だいじょーぶそーに見えないんだけど」


 ゆーとのいうとおりである。


「そうそう、だから、次は、私引く係、稲田乗る係……、おーけー?」

「やめろおっ、絵面考えろよおめーっ?!」


 ゲホゲホ咳き込みながら、吠える稲田先輩。

 あー、たしかにその絵面は、ひでーわな、うん。


「げふっ、げふっ、お前がタイヤ引きたいっつー……なら、好きに、しろ。

 でも、……俺は、もう帰るからな?!」

「……っ! ま、待っ、て!」

「うおっ? ちょ、……タエ、腕にすがりつくなっ?」

「付き合える人、他に、……いない。 一緒に、……しよ?」

「……こふっ」


 妙子先輩が腕に抱きついて、すがるような視線を向けてる。

 今にも死にそうに視えた稲田先輩の顔が赤くなったり、青くなったり。

 まあ、あんな大きな胸押し付けられたら、そういう反応になるよな。

 面倒なのやら、羨ましいのやら。


 ……てか、ん? タエ? ふむ、……あー、なるほどね。

 なるほど、そういう関係か。


「あー……」「……(お邪魔、みたい、かな?)」


 俺とゆーとも、ここは、微笑ましげに見守るほかはない。


「ん? 何だ? 後輩ども、ニヨニヨし……、お、おうっ?」

「んしょっ」


 突如、稲田先輩を担ぎ上げる妙子先輩。


「な、ななななな、何すんだあっ?」

「これなら、……おーるおっけー」

「絵面が余計悪いわーっ?!」


 稲田先輩が妙子先輩に米俵みたいに担がれながら、騒いでいるが、抵抗する力は残っていない模様。


「げひっ、おろ、せえ……ぐふっ」

「……、……、……」


 抗議の声を上げ続ける稲田先輩を担いだまま、妙子先輩がふと、ゆーとを見て、何か考えること、数秒。


「降ろ……、おろー……」

「……これ」「ふえっ?」


 胸ポケットから、何やら薬を取り出すとポンとゆーとに渡すと。


「次から、忘れないように、ね」

「お、降ろせ……、降ろーせ……」


 そのまま、足取り軽く、稲田先輩を担いで走っていってしまった。


「……ゆーとさんや」

「な、何かな、けーごさん?」

「何、その、薬」

「えと……、えと、……鎮静剤」

「……、……、ちんせいざい?」

「……発情、抑える……薬、デス」


 ゆーとの説明によると、性転換してから3年間は、これを飲み続けないとイケないそうナ。

 ……ちょっと待て。


「……本当に、持ってくるの、忘れたのか?」

「……、……、……」


 死刑宣告を受けたかのように、真っ青に青ざめるゆーと。

 い、いや、説明したくないなら、別に、といいかけたその時。


「その、……けーごと、シたくて、つい……わざと」

「……そ、そっか」


 バカ正直に説明して、目をきゅうっとつぶって半泣き状態になるゆーと。


「……やな質問して、悪ぃ」

「……違うよ、ボクが、ボクが、悪……ぐすっ」


 とりあえず、頭抱えて慰めてやる。

 いや、そもそも、だな。


「俺は、お陰で、嬉しかったし……、別に……、間違いじゃねーよ」

「……、……、……ふぇ?」


 ゆーとさんや、満面の笑みを浮かべるのはいいけど。

 鎮静剤投げ捨てようとするのはやめなさい。


 ん、つか、そもそも、何で、妙子先輩、そんなもん持ち歩いてたんだ?

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