第6話

パニック状態を越えた人間はどうなるの?それは正常に戻るのか、それとも異常になるの?

義兄は極力私に汚れた面は見せないようにする。幸せを呼ぶ魔法を知る兄は勿論不幸を喚ぶ魔法も知っている…


「お兄ちゃん何て大嫌い!!」

中学二年の初夏。あれはまだ夜は寒さが戻る7月の初めの事だった。兄は大学に受かって4ヶ月目だった。

理由は特になかった。ただ一々兄の行動に苛立ちを感じた。薄目の紅茶も、私に似せた容姿も、周りに使う気遣いも、あの笑顔も何だか腹立たしかった。

それはただの反抗期と言うものだったのだと後からわかった。常に両親がいない私はずっと面倒を見てくれていた兄を知らぬ間に対象にしていた。


中学二年に上がってから次第に募っていた思い。始まりは些細な事だった。

兄はとても頭が良かった。だから今行っている大学よりももっと上の有名な医療系大学に受かっていたのだった。誰もが彼はそこに行くのだと思っていた。

なのに兄は

「そこは遠いから行きません。家を離れたくないんです」

と行ってその大学を蹴った。そして家から最も近い大学に入学した。

私が家に帰ると必ず家にいた。特にサークルにも入らなかったようだった。

スポーツも得意なのに高校の時も部活動はしていなかった。

どうして何もしないのかと訪ねると兄は笑いながら

「ケイトと一緒にいたいから」

と言った。

昔はその言葉がとても嬉しかったのに、反抗期を迎えた私には「ケイトがいるせい」と聞こえた。

食器を下げてくれるのも、腕を組んで歩くのも、笑っているのも、これ以上迷惑をかけられない為にしているんじゃないかと思った。

七月になって我慢が出来なくなった私は兄に沢山の罵声を突き刺して家を飛び出した。夜の街は目の悪い私には歩きにくかった。何度も転んだで擦り傷が沢山出来た。それでも行くあてなんか無い私は泣きながら街をさ迷った。あんなに酷い事を言ったのだから兄は絶対に迎えに着てくれない。ただただ、寒くて痛かった。もちろん体だけでなく心も…

真っ暗な公園で私は声が枯れるまでないた。


「ケイト!!」


深夜0時を迎える頃だった、聞き慣れた声が私を呼んだ。そこには汗だくになっている兄がいた。兄は私に駆け寄ると何も言わずに強く私を抱き締めた。その腕は酷く震えていた。

兄が本当に私を愛してくれていたのだとよくわかった。そうやって私の反抗期は終わった。

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