第3話

「僕はね、ちょっと日常を幸せに生きてみたいだけなんだ。もちろん、周りの人も幸せになってくれたら嬉しいな」

私の義兄は昔からこの言葉をよく言う。私はこれも兄の一種の魔法だと思う…


「おはよう…今日も良い日になりそうだね…」

朝、兄はサラサラのストレートな髪に顔の半分を覆われ不機嫌な顔をしてそう言った。声自体にも力が無く、どうやら寝不足らしい。

兄はどんなにしんど差を全面に表していても取り敢えず口ではそう言うのだ。

兄はそのままリビングのテーブルに突っ込んだ。

「お兄ちゃん大丈夫?」

私は暖かなフレーバーティーを入れて兄の顔の前に置いた。

兄は「ありがとう~」と言うとフーと少し息を掛けてクイッとお茶を飲み干した。そしてよく温まったカップをおでこに当てて小さく呻き声を漏らした。

私は兄の前の座席に座り同じ様にお茶に息を掛けてゆっくりとお茶を含んだ。

こっそりと机に突っ伏している兄を見ると兄は視線に気が付いたのか髪の隙間から覗く目を細めて「ねぇ、ケイト。笑って」と言った。

私は戸惑いながらもにっこりと笑って見せた。

兄は「よし!」と言うとガバッと立ち上がって、自室に戻った。


私はお茶を飲みながら兄の自室のドアをボーと見つめた。兄と私は実を言うと見た目は余り似ていない。むしろ対照的なくらいだ。しかし兄は出会った頃からそれを嫌って日常は見た目を似せているのだ。だから寝起き直ぐの兄の姿はどうにも見慣れない。

そういえば昔から兄の口癖の一つに「僕とケイトは兄弟だから」と言うものがある。私が思うにこれは兄のコンプレックスなのだと思う。


兄は昔から大切な事は言葉にしなければならないと言う。言葉には力があるとは確かによく言われることだ。

そして兄は気持ちを込めなくても言うだけで変わる事があるから取り敢えずいい事は口に出してみるのだと…

なので兄は朝起きるとどんなに気分が悪くても“良いことがありそうだ”と言うのだった。

そんな事を考えながらお茶を飲んでいると不意にため息が出た。私はいけないと思い頭をふるふると降って「良い事があると良いな」と呟いてみた。


ガチャリと兄の自室のドアが空いた。

「あのね~ケイト~昨日会社でマカロン貰ったんだ一緒に食べよ~」

普段通りの癖の有るように見える髪型をした兄はそう言いながら部屋を出て来た。

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