第6話

「やっと帰ってきた……って本当に仕事あったのかよ」


「雄二と、ゆきもお帰り~。図書委員も大変だね~」


 朝の当番が終わって五反田さんと教室に戻ると、さっそく賢一となつが迎えてくれた。どうしてなつは僕たちに笑顔を向けてくるのだろう。それはもう賢一のもののはずなのに。


「大したことじゃないわよ。貸し出した本を整理することくらいで」


「ふーん? でも雄二はわたしたちを置いてまで先に行ったからなあ」


「そ、それは僕に割り当てられた仕事が、五反田さんよりも過酷だったからで!!」


 慌てて取り繕う。まさか本人たちに、『気まずいから先に行った』なんて本当のことを言えるはずがない。言ったが最後、僕たちの関係はお終いだ。


「ならいいけど……わたし的には三人で学校行きたかったな、なんて」


「だそうよ、弐宮にのみやくん。今度からはあたしひとりで当番をやるから三人で仲睦まじく登校して頂戴。そのほうがあたしも気楽でいいから」


「そうだぞ、雄二」


 おかしいな。先まで味方だったはずの五反田さんが寝返ってしまっている。もしかすると僕は、五反田さんに遊ばれているのではないだろうか。彼女のにやついた笑みを見て、そう確信するに至った。


「それにしても、三人って半端ね。あなたたちって、まるで三角関係みたいよね」


 いきなり何を言い出すんだ、この人は。ストレスでも抱えているのだろうか。僕を自分の傀儡にして、ストレス発散を目論んでいるのだろうか。


「三角関係って、そんなんじゃないよぅ。急にどうしたの、ゆき?」


「そうだよ、五反田さん。僕らの間にそういうものがあるなんて訳ないじゃないか。妄想も大概にしてよ」


 同時に視線で五反田さんに訴えかける。やはり五反田さんに話したのがいけなかったか。僕が置かれた、こんな冗談みたいな状況は笑うしかないだろうし。


「弐宮くんの当たりがきついのはこの際置いておくにして。まあ、妄想なのは認めるわ。陰でどちらかがなつと付き合っているなんて妄想は止めにしておくわね」


 まさかぜんぶ言ってしまうとは。ふたりのリアクションが気になるけど、振り返って確認してしまいたいけど、そうしたら負けだ。今は無に徹する。

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