第23話 魅入られた、異世界の場所
伝えたいことは沢山あって。共有したいことも、山ほどあって。
SNSでも、ありのままに伝えたいことがあるんだ。
――『? おい。どうかしたのか。
僕の反応を心配してか、滝澤が確認に言葉をかけてきた。
どうも、僕がおかしいと、察したのか。それとも、野生の勘なのか。
「ああ。うん、大丈夫。ただの二日酔いだ」
心配をかけて悪いけど、もっと、もっと。僕の言葉に耳を傾けくれないか。
僕にとっての親友は、お前だけなんだよ。滝澤。
――『じゃあ。続きを話してくれよ』
◆◇
「った、たたたっ、確かに。私も悪いです! それは素直に謝りますが、お客様っっっっ‼」
「っつ! そうだよっ! 悪いって分かってんじゃん!」
「……揚げ足とるのを、止めてもらえませんか?」
「乗客だぞっ! 僕はっっっっ‼」
僕がそう吠えると、尾田は苦虫を噛んだ表情で、僕から視線を外した。
「痛いところを点かれたな。
肩を揺らして笑うのはチャーリスだ。
「っう、っせぇ~~よ!」
笑う彼の脇を拳で殴る尾田に、
「大分、笑うようになったな。フジタ」
しみじみと、チャーリスが言うもんだから。
尾田の顔が耳まで真っ赤になってしまった。
「うっせぇえよ! ……突っ込むぜぇええ‼」
アクセル全開に、タクシーを動かした。
タクシーの周りには。ダチョウのような鳥に乗る、チャーリスの仲間の姿があって。
大群となっていて。
先頭がタクシーだった。
「お客様。あんた、免許はあるかい?」
僕は尾田の確認の意味が分からずに、僕は「免許あるに決まってんじゃんか」と素直に応えた。
するとだ、どうだよ。あの野郎は。
「ああ、よかった。それでは、タクシーの運転をお願いします♡」
ドアを開けて消えてしまった。
「っちょっと! 尾田ぁああ‼」
僕は無我夢中に、一心不乱に運転席に腰をかけて。アクセル全開にさせた。
尾田が開けたままの扉も、ガタガタと激しく揺れて、車体に当たっていた。
「ふっはっはっは! このタクシーに乗ったのが運の尽きというものだっ! 終えるまで異世界を視るがいい! この衝撃的にも、ココロオドル世界をなっ!」
チャーリスが僕に吐き捨てると、勢いよくタクシーから飛び出て、ダチョウに乗り変えて駆けて行く。
それには僕も置いてけぼりの食わないように、タクシーを走らせた。
そこからは圧巻な、夢物語だった。
至るところから上がる黒煙に。地面一杯に溢れかえる死体、死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体――……、の肉塊に成り果てたものが転がっていた。
命を絶つのはチャーリスと、その仲間だが。それ以上に目につくのは、尾田の姿に他ならなかった。一体、何歳なのかと思うくらいに、動きは俊敏で、チートな能力者で、漫画や映画の中での理想の主人公なのは間違いない。ニコニコと、機敏に舞う様子に僕も息を飲んでしまう。
実写なら、堺雅人に間違いないだろう。歳はどうにでも出来るしな。
「蛆虫共がぁアァああッッッッッ‼」
全身を真っ青に染めて、大きく口を開けて嗤う様子に。
ぞわっ! と鳥肌が立った。
「×¥◇&◆$□%??」
っじゃ! と肩に鋭利なモノが当たって。
腹に激しい痛みが起こった。温かいものが流れる感覚もある。
「っへ?」
前だけを見て、運転してた俺の開いたままだった扉に。全く、何を言っているのか分からない――雉が俺を見据えていた。表情からいって、明らかに敵だ。
「っぎゃ!」
悲鳴を上げ、ハンドルを切った僕の目の前で。雉が車内から抜かれた。
そして、僕を伺うのは。尾田だった。
「ぉ、お客様、っだ、大丈夫ですか!?」
「ぁ、ああ!」
「なら、よかったです」
心配そうに聞く尾田に、僕も大きく縦に顔を振った。
その様子に尾田も、苦笑すると。また、浮き上がって飛んだ。伸ばした手には閃光が奔り。
腕を振ると一斉攻撃に奔ったことに恐怖した。
だって尾田には、躊躇も迷いさえもないんだから。
終わってしまった喧嘩の行方はと言えば。
勿論の結果だと言えるだろう。
「チャーリス! っしゃ!」
「ああ! フジタぁ‼」
車内の後部座席にチャーリスと一緒に戻った尾田がガッツポーズをした。
尾田たちは戦いに勝利をしたんだ。
身体全身は真っ青に、真っ黄色にと、様々な色に染まる様は。
現代アートのように視えなくもない。
そして。
僕も、意識を手放した。
◇◆
どうしょうなく、ほんの少しだけ。
あと、一寸だけ。僕の話しを聞いてくれないか。
滝澤。もう少し、あと、一寸。
「ん、ぁ……」
「ああ。起きましたか、お客様。いえ、伊勢小津雄さん」
「!?」
俺の名前を呼んだ男がいた。
見覚えのない部屋に、僕も、辺りを見渡した。
さっきまで、俺は滝澤と電話をしていたはずだ。
僕の部屋から滝澤に、今日あったタクシーの話しをしていたはずだ。
「驚かせてしまいましたね。初めまして、私は尾田ダンマルと申します。尾田藤太の弟です。この度は、私の身勝手な提案に巻き込み。心よりお詫び申し上げます」
深くお辞儀をするダンマル。
ああ、そうか、こいつがの発端となった、電話の相手なのか。
いいや、その前にだよ。ここは一体全体としてだ。
「ここは。どこなんだ? ダンマル」
「ここは――《病院》です。伊勢さん」
「っびょ?!」
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