‐日に向かって①‐

貧民街、そこに住む物達は日々の生活、衣服、食料、水さえ満足に手に入らず飢えから耐え、寒さから耐えるために廃墟でボロ布に包まり焚火の前に集まり凌ぐ…東の大陸、同種族同士での血で血を洗う戦い、戦争が続いている。

大人と子供関係なしに徴兵され、怪我をしたもの力のないものは捨てられる…逆に力を持つものは重宝され、飢えることなく暮らせる。


私には名前が無かった…父は徴兵され兵士として戦争に参加し命を落とし、母は悲しみに暮れているときに貴族に助けられ…そして騙され奴隷となったらしいその時、お腹には私がいて屋敷を逃げ出し協会に私を預けたらしい、私にそう教えてくれた協会の人…協会も取り壊されて今はもうない…貧民街には私と似た境遇、もっと酷い経験をした者が集まる…


「お腹…空いた…」

「寒い…寒いよ……」

「こんな怪我さへしなければ俺は…」


呟く子供達、嘆く大人、骨に皮がついているだけのような、痩せ細った肉体…飢え、寒さを訴える者、自身の無くなった部位を睨む、国の重役、貴族、兵士を優先にされる食料、治療スキルの使い手、日々の食に苦労し怪我の治療を行うお金もない、生業も無い…


私達がいるこの国はまもなく亡びるだろう…知恵、賢い者たちは隣国、他の大陸へすでに逃げ、愚かな者、自身の現状を理解できず、国を勝つことを今も信じる物達は王城内、屋敷に籠り戦争が終わるのを待ちながら貴重な物資を食いつぶしている。


「武器になるものはないのか?どこかの家を襲って…」

「やめてよ! また兵士たちが来たらどうするの? 私達を巻き込まないで! 」

「何人が死んだと思っている! いや…死んだ方がましなのかもな…」


武器も無い、力も無く、抗い求めて家を襲えば兵士たちに襲われゴミ掃除と題され暴力を振るわれる、魔物を倒し…食料を得ようとしても痩せ細った老若男女、けが人になにができると言うのか…逆に狩られ食われるのみだ…スキルやステータスがあったとしても経験の浅い者達では遣られる、元兵士ならば? …ここに来た兵士は戦う力が無いからここにいる…子供達よりも動くことができない、武器もろくに握れず…歩くこともできない者がほとんどだ…


「こんなところにいるより…他で生きよう…万が一死んでも…いいや…」


私は夜、人知れず貧民街をでて国の外へでた…荒れ果てた大地、紛争の跡…転がる死骸や骨…

ユクド・ヘイラというこの世界では各大陸、納める国同士で魔物以外を殺すことは禁止されているが

この東の大陸は富をもとめ発展をもとめ未だに争いを繰り返している他の大陸からはもはや止める国はいない…発展をしようにも異世界からの転生者、転移者は駆り出され戦死しその知識を伝えることも、なにかを生み出すこともできずたとえ何かを生み出すことはあったとしても後世に伝わる事は無い、この大陸は見放されたのだろう…今は他の大陸に渡るものはいてもこちらに来るものなんていない…そう思っていた。


「汚い獣人め! 近寄るんじゃない! 」

「これ生きてるの? …だれかこれどかしてよ! 」


泥水を飲み、雑草を食べ、私はどうにか小さな町に着く事ができた…戦争や紛争にはまだ巻き込まれていないらしく、貧民は少ない…


「よそ者は去れ…私達だけ生きるのに精いっぱいだ…」


だが…他所から来た私は受け入れられず、ここに私の居場所はなかった…路地裏で座り込み同情から湧けてもらった貴重な食糧を食べる私…味は感じない…


「おい…こいつは獣人か…若い女だな…売れるんじゃないか? 」

「やめろよ…そんな汚いの、着飾ればまともになるだろうがそんな金ねーだろ、病とかもってるかもしれないし、まず売れても元がとれるかも分からない… 」

「それもそうだな…そういえば隣の国、戦争に負けたそうだぜ」

「この町もそろそろか…次どこにいく? 」


去っていく男二人…どうやら私がいた国は戦争に負けたらしい…貧民街の人達は無事なのかな? 

カビの生えた固いパン、落ちたパン屑を舐めとり、近くの噴水の水を飲む

町に住む者達が汚い目でみてくる…戦争に巻き込まれれば貴方たちからも少なからず私と私達と同じになるのに…実際にその身で体験しないと分からないのだろう…


水浴びをすませ、少しだけすっきりした…私はこの町からでた…

何日たったのか…歩き続けた私は砂丘地帯へ足を踏み入れていた。

村もない町もない…見渡す場所はどこも砂、砂、砂…


「あとどれぐらいで次の町かな…門番に聞いたのはこっちの方角と言われたけど…」


私は騙されていた…弱り切った私はその門番の表情すらちゃんと見ていなかった…この方角にはいくら歩いても近くに村や町などないただ砂が続くだけだ、嘘ではないかもしれないが馬車などを利用して1週間ほどかかる場所で徒歩でなど不可能に近い、その理由は…



目の前にはとても大きい魔物…サンドワーム、砂竜と呼ばれる硬いゴツゴツとした皮膚、眼らしきものは無く姉弟に口を輪に広げ周りには牙がならぶ、獲物を刻み込み、丸呑みし体内の胃酸で溶かす…私も動けない…


「これで…死ねるのかな…」


サンドワームが口を大きく開き…私を丸呑みにしようとして…覚悟を決めていたが食べられる気配がない、恐る恐る目を開けるとそこには二人の冒険者? がたっていた。


「アキト! そいつ結構固いわよ! 」


「おれミミズとか苦手なんだけど…うわ~口きもっ! きもっ! ちょうどいいコイツの試し切りだ! 」


長髪を後ろに束ねる男の人、細身に見えるのに力強い攻撃でサンドワームを押している…冒険者複数で戦うような魔物なのに…そして私の前にいるお姉さん、黒い髪と白いフードの付いた服、私に手を差し伸べてくれる。


「大丈夫? 危なかったわね…もう少し待っててね」


私の人生が変わった瞬間だった

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