-不運な住民は新居を探す-

王都リ・ワールドの深夜、東西南北にあるゲートから王城まで続く大通り、深夜にも関わらず通りには数多くの明かりがついており飲食店、飲み屋では笑い声が響く。

各住居や建物には設置型魔道具での防音処置がされており騒音問題のトラブルはない。


「おい…なんあれ? 」


「んあ~~なんらオメ~オレの酒が…」


「いや、おいアレだよアレ…」


「お、おちてくるぞ? 」


「東の住宅街の方だ!」


「あ~落ちちゃったか…見ぬふりしよ…」


慌てる二人を尻目に飲み屋のカウンターには黒髪の女が一人、物知り顔をしていたが飲食に戻った

警備、巡回をしていた兵士たちが走りだし騒ぎが起きている大通りの中で幸せ顔でピザを楽しむその姿はかなり浮いていた…満面の笑みで食事を再開した女に店の外と女を交互に見ながら店の人間は…


「え…いかないでいいの? すごい騒ぎだけど…」




----朝----


私はローウェル=キタバヤシ


王都に暮らす者だ…深夜に…ドラゴンの墜落事故があり暮らしていた家が損壊した…丁度その時は妻のジャスミンや仲間達とダンジョンに遠征に出かけており無事だったが…かなりショックを受けた。

ジャスミンには無事だった家具や物資を任せて俺はいまICEKAI CHINTAIへ向かっている…

損壊した家も以前中古物件で格安で売ってもらえたのだったな…事故物件と言っていたが…

旅の途中でドラゴンの墜落に巻き込まれて亡くなった冒険者の霊がいるとかなんとかで…


……偶然だよな?


「いらっしゃいませ~」


「ン~イラッシャイマセ~」「イイクスリデス」


店長のイズミさんだ…いつもいる獣人の子とエルフのコンビではない昼の休憩なのか…

この石像はなんだ?! 前を通った瞬間しゃべったぞ?! 目がギラギラしている!

あまり見るのは予想…すごい目線を感じる敵意はないようだが…


「…すいません家が倒壊して」


「…知っています」


なにか落ち込んでいるが、聞かない方が良いと冒険者の感が言っている。


「それでですね新しい住居をと思いまして…ただ同じ場所に建てるのはどうかと思いまして」


「そうですか! 価格もサービスしますよ! …倒壊の原因私にもありますし」


後半は聞き取れなかったがサービスしてくれるらしい!


「それとですね出来れば前の家よりも広いほうがいいですね…家族が増える予定があるので」


「お子様が生まれるんですか? そしたら子供部屋等があるほうがいいですね」


「いや、まだ予定なんですが…」


「一軒家と集合住宅とありますが」


以前来た時にある程度説明は受けており前回は中古の一軒家を選んだが…


「一軒家でなにかいい場所ありますか?できれば新築で庭があれば…それと今日から利用できる場所がいいのですが予算は大金貨10枚ほどで…できれば数回払いで」


「わかりました、しばらくお待ちください…こちらでもお飲みになっておまちください」


差し出された珈琲を頂きながら外を眺める硝子に貼られた数多くの物件情報、王都で1件だけもしかすると世界で唯一の賃貸屋、30日契約または新築、中古の家から屋敷まで取り揃えている。

長期滞在者向けで客も絶えないようだ…貴族らしい人物が従者と顔を険しくして閲覧している。


「お待たせしました」


「いえいえ・・・ごちそうさまでした」


「それでですが…家族むけの物件がいま不足しておりまして建ててしまったほうが良いと思います」


「え…建てる?」


「ええ!…3時間後にこちらの場所に来てください」


…何を言っているんだ…この人は



----3時間後----


住み慣れた我が家がドラゴンの墜落という悲劇に見舞われ損壊、愛する妻と未来の子供、ひとつの家族のためにいま…(事故物件を販売した後悔の念から)ISEKAI CHINTAI店長のイズミが軽い腰を持ち上げた。


広い王都の西地区、穀物地帯…自然と農園が広がるこの場所、隣街や農村から商人の荷馬車が通る道。


いままで借地と書かれていた看板が立つ土地だった場所に…


なんということでしょう!


木杭の柵で覆われた庭、2階建ての住居が誕生しました。


キタバヤシと書かれたプレートと門、そして門をくぐりぬけると


ダンジョンで手に入れた食材で仲間達と楽しむバーベキューを楽しめる広い庭


そして玄関を開けたその先に広い居間とキッチンがあり広い庭を一望できる、ガラス窓を開けるとテラスがあり、夫婦の目線には元気に遊ぶ未来の子供が幻視できる。


そしていまや王都では必須とも言われているトイレと大きなお風呂、大人二人が同時に入れるひろさがある。最新式の魔導湯沸かし器が備わっておりボタン一つで温かい湯を張ることができる。


階段上は吹き抜けになっており自然の優しい日差しが差し込む


2階は寝室であり部屋が3つとバルコニー、バルコニーから見えるのは自然豊かな農園と荷馬車の歩く通りが一望できる…




「ここが私たちの新しい家ですか…というか本当に建てたんですか? 」


「はい、建てましたよ~ それでですね…お値段の方が… 」


「このような立派な家では予算を超えているのでは? 大金貨10枚以上の予算は…」


「きっかり10枚で良いですよ! もちろん借地ではなく土地ごとです! その代わり前のお住いの土地はこちらで頂くことになりますが…」


「構いません! といってもまだ損壊した瓦礫やらいろいろ残っていますが…」


「そちらもこちらでやっておきます!…亡霊の後始末もありますし…」


後半は聞き取れなかったがどうやら大金貨10枚でこの家を打ってくれるらしい!到底この短い期間で建てる事ができなそうな物だが王都で朝になったら建物や店が出来ていたというのは日常茶判事だ気にすることはない。


「こちらが鍵になります」


「ありがとうございます! こちらが代金です確かめてください、さっそく妻に連絡を取り引っ越しをします。」


「早くお子さんができるといいですね」


「!!」


そしてドラゴンの墜落と言う悲劇に見舞われたローウェル=キタバヤシはISEKAI CHINTAIから新居を購入しこれから始まる新しい生活を想い、満面の笑みで妻の待つ場所へと走り出した。

記されていた【不運に…】は消えていき【幸運に愛されし一族】とローウェルのステータスは更新された…



「ふーっ…何とかなった…あとはあの土地の瓦礫をどうにかしなければ…」


ひとり冷や汗を流している女を残して…

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