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あれから更に「冷たい床で寝る!」と言われたのが決め手となり、数日相談しあった結果2人は旅立つことになった。
アキタカが「そうと決まれば今すぐにでも旅に出たい!」と言ったことも理由にはあるが、アストラルにも急ぐ理由が出来たのだ。
いつかの一国を消し飛ばしたという黄金の杖…アレもオリアクスの書の写本である事がアストラルは記事を見て直ぐにわかった。
それもまだ新しい、この地に来る前にはまだ存在していなかった筈の写本。
それが何を意味するのか少し考えれば分かることだった。
未だ自覚無く、世界を破滅に導く奴を早く止めなければ…。
「アキタカよ…もう少し荷物を少なく出来ないか…」
自分の身体の3倍ほど大きなリュックを背負うアキタカをみて改善を要求するアストラル。
背負えているのが不思議なくらいだ。
「村よりも人間が多い所へ行くのだ、大きさは自分よりも小さな物が好ましい」
「そっか、人にぶつかると危ないもんね…バイバイ…『飛べる君試作機1号』2号、3号、4号…」
「よく入ったな」
「8号、9号、10号…」
アキタカのリュックが取り出された荷物の量に応じて縮んで行く、アストラルが風船に変換させた元鋼鉄の檻をこっそりと拝借して作った物で、普通の皮素材よりも伸縮自在で頑丈なリュックになっていた。
アキタカはこれを『しまっちゃう君1号』と名付けた。
ちなみに中身は殆ど試作機で、全て取り出した頃には子供が背負っても違和感のないサイズまで縮んでいるリュックがそこにあった。
「アキタカ、もうみんな出口で待ってるそうだ」
「あ、うん!いま行く!」
慌ててリュックに工具をつめて立ち上がり、ドアに手をかけるがアキタカは名残惜しそうに振り返る。
長旅になる為、家具全てに布がかけられているが家の柱にはアキタカのここ何年かの身長が刻まれ、壁にはアキタカの設計図という名の落書きが描かれている。
見え隠れする思い出達、アストラルと一緒に育ててくれたこの家に「行ってきます」と一言だけ伝えて外からドアを閉めた。
村の出口まで行くと見送りの為に村人達が集まっていた。
その中から本屋の奥さんが本を片手にアストラルの前に出てくる。
「アストラルさん…これを」
そう言って差し出された本はアストラルがよく借りていた料理本だった。
「少々とか適量とか…曖昧な文章に分量の訂正を入れておいたよ、餞別として受け取っておくれ」
「ありがとう、大切に使わせてもらう」
「寂しくなるねぇ…」
「ああ…貴重な常連だもんなイッテェ!?」
「ほんと寂しくなるよ…」
本屋の夫妻に続きアイドニ達も2人の前に来る。
「アキタカ…何もこんなに早く旅立つことはないだろうに…」
「アイドニ…でも多感な子供の時期に色んな経験をした方が世界は広がるんだよ!」
「子供本人が言う台詞じゃ無いし…どうせ本の受け売りだろ?」
「うん!」
「はぁ…アストラルさん、アキタカの事よろしくお願いします、こいつ頭良い様に見えてアホでドジで方向音痴なんで」
「ちょっと!アイドニ!」
「ああ、そうだな」
「アストラルまで!?」
アストラルは自分を睨むアキタカの頭に…正確には帽子に手を置く。
「大丈夫だ、これを被っている限り一定の範囲内なら場所を把握できる」
「えっ!?」
「やっぱり…」
驚くアキタカとは反対に納得した様子のアイドニ。
「迷子の時も誘拐の時も駆け付けるのが何時も早すぎると思ってました…過保護ですね」
「ああ、ついでにダメージを受けても私に連絡が来る仕組みだ、だから怪我も隠せないぞアキタカ」
「なんでぼくに言うの!?」
「さぁな」
そうやってからかうアストラルに表情筋と呼ばれるモノは存在しないが、アキタカは不思議とアストラルが笑っているように見えた。
そうこうしている内に滞在していた行商人の馬車の準備が完了する。
一番近い町までこれに乗せてもらう予定だ。
「さぁ、そろそろ行くぞ」
「うぅ…うん、元気でねみんな」
2人が馬車に乗り込んだのを確認すると馬車は走り出した。
「さぁ、親友の門出だ!派手に見送ろうじゃないか!」
そう笑顔で声をあげたアイドニの右手にはレプリカ杖、左手には翼を広げた鳥の形に切られた葉の束が握られている。
「『風よ!踊れ!踊れ!その器を
杖を力強く前方に掲げ、葉をばら蒔く。
「『道を阻むものは何もない!自由に!空へ!』」
詠唱が完成すると同時に鳥の形をした葉が一斉に羽ばたき馬車に並ぶように飛んだ。
「アイドニ…!すごい!すごいよ!」
アキタカはギリギリまで馬車の外へ身を乗り出し食い入るようにその魔法を見続けた。
アイドニは高度な魔法を使ったせいでフラつく脚に気合いを入れ真っ直ぐ前を見据えて立つと、姿が見えなくなるほどに遠く離れた親友に願いを込めて叫んだ。
「アキタカー!今まで色々言ってきた俺が言うのも変かもしれないけど!お前はお前の力で空を目指すなら!俺は俺の魔法で空を目指すよ!だから…諦めるなよー!!」
アキタカに聞こえたかどうかは解らない。
だがアイドニはそれで良かった。
もう葉の鳥は飛んでいないがアキタカは空を見つめたままだ。
「ぼくがんばるよ、アストラル!アイドニに負けないくらい!」
「ああ、怪我しないようにな」
「うん!」
こうして、魔力の無い少年アキタカと写本アストラルの冒険の旅が始まった。
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