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乱暴にガタガタと揺れる馬車の中、子供が数人入る程度の大きさの檻に2人は入れられていた。

冷たくて硬い上に揺れる床、その寝心地の悪さにアキタカが目を覚ました。


「いたたた…あ、たんこぶ…」


起き上がった拍子に帽子が落ち、咄嗟に手で頭頂部を触るとぽっこりと腫れている事が分かる。

顔をあげるとアイドニが心配そうに見つめていた。


「大丈夫か?」

「うん、この辺が痛いくらい」

「…まったく、その程度ですんでよかったな…俺は逃げろって言ったのにお前って奴は」


アキタカの様子を確認して少しホッとしたような表情をするアイドニ。

2人は自らの状況を再確認する様に辺りを見渡す。


馬車を引く御者が1人、馬車の中に見張りが1人クッションを背に居眠りをして居る。

残りの4人は他の馬に乗っているか別の馬車に居るのだろう、確認出来る範囲には見当たらなかった。


「あ、レプリカ」


居眠りをしている見張りの腰に黄金の杖のレプリカを発見する、眠っている間に奪われたようだ。


「どうした?」

「いや…あの杖も取られちゃったんだなって」

「ああ…武器になりそうな物は片っ端から取られたみたいだな…オモチャだからあっても無くてもだが…」


「ううん、レプリカは本物の杖としても使えるよ」

「は!?」


アイドニが目を見開き「何を言ってるんだこいつは!?」と言いたげな顔でアキタカを見る。


「…見た目は確かに新聞記事のそれだが木の寄せ集めだぞ?指向性がぶれるし威力も出ない筈だろ…?」


恐る恐るアイドニが問いかける。

アキタカは自由飛行に関しては本人が長い目で見ているため自己評価が甘いところがある…が、それ以外の技術に関してはストイックな評価をする性格をしていた。

その為アキタカが「できる」と断言するモノは全て完璧以上のモノとなっている。

この即興で作られた筈の杖に関しても「使える」と断言した。

恐らく本来のアイドニの杖かそれ以上の性能を持っているのだろう。


「杖の内側が空洞になってるんだけど…その中に魔法に使う魔力を更に空気中の魔力で補って威力を上げる…っていうを組み込んだんだ、ぼくじゃ試せないけどアイドニなら使いこなせると思って…杖…取られちゃったけど」


「…お前…時々とんでもない事をさらっと言うよな…」


心底がっかりしたように言うアキタカを慰めるわけでもなく正直な感想を言うアイドニ。


命令式めいれいしきというのは「魔法施行過程指定命令術式まほうしこうかていしていめいれいじゅつしき」の簡略化した呼び名である。

魔法陣というのは大きな魔法を使った際に現れる紋様エフェクトを指すが

命令式の方は詳しく書けば書くほど魔力を通した際に発動する魔法に差違が生じなくなり、使い方によっては全自動で魔法を発動させる事も可能でゴーレムを動かすのにもこの命令式の技術が使われている。

別の世界で言うとこのプログラムようなモノだ。


ただし文字を書く為のスペースが必要で、ある程度の大きさのモノにしか細かな命令式は使われず、それを杖に使ったアキタカの発想は大変珍しいモノだった。


アキタカは意図も簡単にオリジナルの命令式を作ってしまっているが複雑な式を組むにはそれ相応の知識が必要な為、決して…断じて簡単ではない。

それはアキタカよりも年上で魔法の才覚に長けたアイドニでも無理な芸当で、アイドニに無理なら恐らくそこらの大人の魔導師でも無理だろう。


「大丈夫?また変な顔してるけど…」


「ああ…気持ちの整理が追い付かないだけで大丈夫だ…少し放っておいてくれ…」

「そうだよね…今まさに誘拐されてるもんね…」

「いや…それとは関係ないんだが…まぁいいや…」


少しでも気持ちを落ち着けるために寝転がるアイドニ

背中越しに馬が走る振動が伝わってくる。


ズガァンッズガァンッ‼️


それに混ざって硬い金属のようなモノで大地を突き刺しているかのような音が一定の間隔で聞こえてきた。


ズガァンッズガァンッズガァンッ‼️


音がどんどん近付いてくる。


ズガァンッズガァンッ!!


流石に不信に思い、アキタカとアイドニで馬車の後方の小窓を覗いた。


「あ!アストラル!!」


そこに見えたのは子供の不祥事に慌てて迎えにきた保護者アストラルの姿であった。

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