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その頃、アストラルはアキタカの為に本屋で料理の勉強に勤しんでいた。


「うむむ…なるほど…砂糖を減らせば焦げるリスクは減ると…」


アストラルは普通のゴーレムと思うには余りにも出来ることが多すぎるゴーレムであった。本来のゴーレムは組み込まれた命令以外の行動は取らず、精々オンオフ切り替えくらいしか出来ない。

中でも学習機能なんてものが搭載されているという事実が異質を極めていた。


しかし、この王都から外れた小さな村でそんな事を知る由もなく

「ゴーレムって物覚えが良くて頑丈ですごい!」程度の認識となっていた。

さらにアキタカに両親がいないというのにも関わらず、今のところ素直でいい子に育っているという事実が村の中でのアストラルの評価を上げている。


そんなアストラルが唯一苦手とするのが…


「すまない、このの意味が分からないのだが…」


食事を必要としない故に味覚を持たないゴーレムの悲しい性

お料理であった。


「おー適量は入れたいだけって意味だぜ!少々はなぁ…イデェ!」

「あんたねぇ!食べるのはアキタカちゃんなんだよ!」

本屋の店主がアストラルの質問に面白がって答えていると内容を聞いた店主の奥さんが拳骨を食らわせて黙らせた。


「本なんかよりもあたしが今度直接教えてあげるからアキタカちゃんを連れて晩御飯でも食べにおいで!今晩でもかまわないよ!」

「お!それはいいな!こんな嫁だけど料理の味は保証するぜ!アイデッ!」

とは何だい!!」

懲りずに軽口をたたく店主に奥さんが拳骨を食らわせた。


「それはとても助かる…狩りで肉を取ってくるから今晩教えてもらえないだろうか」

「やだねぇ!気を遣う必要はないよ!けど、品数が増えるのはありがたいねぇ!」

「よっしゃー!久々の肉だぜ!イデェ!?なんで殴るんだよ!」

「あんたはもう少し慎ましさを覚えな!!」


そんな会話をしていると依頼書らしき紙を持った冒険者の男が近づいてきた、冒険者だと分かったのは格好もそうだが冒険者タグを首から下げていたからだ。

何事だろうと話を伺おうとする。


「こんな辺境の村に冒険者なんて珍しいねぇ、魔獣もこの辺にはいないだろう?」

伺おうとすると先に奥さんの方から質問してくれた。

よそ者の前でアストラルが話すとかなり驚かれるため口を開く必要がなくなったアストラルは少しホッとしていた。


「ああ、ここは驚くほど平和だな…森とかなり近いのにここまで平和な村は珍しい」


冒険者の男は不思議そうに答える。

魔獣というのは魔力により異常進化をした獣を指す。

異常進化をした獣は内包エネルギーの消費が激しいため常に飢えており、飢えを満たそうとして他の動物を襲い暴れるのだ。

襲う対象にはもちろん人間も含まれている。

そのため人の住む所には高い塀が設けられたり魔獣の討伐や実地調査を専門とする冒険者ギルドが存在するがこの村にはその両方とも存在しない。

アストラルの中の見解でしかないが土地そのものに含まれる魔力が微々たるもので尚且つ安定している為、動植物が穏やかにゆっくり育つ。

故に急成長することもなく魔獣も発生しないのだろう。


「俺がここに来たのは魔獣関係じゃない…こいつだ」

そういうと冒険者の男は手に持っていた依頼書…ではなく手配書を夫婦に見せてきた、

手配書にはいかにも悪党な顔つきの男が画かれている。


「こいつは非合法な誘拐と人身売買を繰り返してるらしくてな…目撃情報によるとこの村の近くに居るらしいからそれを知らせに来た、もし見かけたら俺に教えて欲しい、暫くはこの村の近くで野営をするつもりだ」


「こんな辺鄙な村に誘拐犯だなんて…恐ろしい世の中になったもんだねぇ…うちの坊やも呼び戻さないと!アストラルさん家のアキタカちゃんにも…あら?どこに行ったのかしら」


夫婦が辺りを見渡すが既にアストラルの姿はそこには無かった。

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