第12話 裏の顔
「盗聴器が壊れてるから未来と美月と香菜の助けには期待できないな......」
手元にある壊れた盗聴器を見て
「鏑木君!先生が必ず助けるから安心してね?」
辺りの確認を終えた先生が僕の元に戻ってくるなり励ましてくれる。
「おぉ、流石頼もしいですね!」
「えへん!」
ふんすっ!
とドヤ顔で胸をはる先生。
「何か具体的な策が?」
「うぅ......先生遭難したことないからわからないかな?とりあえずこういう時は動けばいいのよね!」
「ちょっと待ってください、この山はかなり大きいみたいですし、方角も分からないので闇雲に動いても道に迷って終わりです」
ネットサーフィンをしていた時にそんな記事があったのを思い出して先生に伝える。
すると先生はふむふむと頷いたあと、頭に『?』を浮かべる。
「じゃあどうすればいいの?」
「えっと確かこういう時は、今いる位置をあまり動かない方がいいらしいです」
他の人が落ちていた現場を目撃していた場合、見つけやすくするためだ。
もし動いてしまうと、それこそどこにいるのか分からなくなってしまう。
「時間が経っても見つけられなかったら?」
「その時は山を登ります」
「?下るんじゃなくて?」
「道がわからずに下ってしまうとそれこそ変に迷いますし、木が多くて救助隊からも見つけられにくくなるので、登って、開けた場所に行った方がいいみたいです」
完全に受け売りでしかない知識だが、今はその知識がすごく役に立っている。
ネットサーフィン様々だ。
「まぁしばらくはここで様子を見ましょうか」
「そうね!それにしても鏑木君はほんと頼りになるなぁ、あの子たちが
「ちょっ!急になんですか!?僕の方こそ先生のこと頼りにしてるんですからね?」
「じょっ、冗談よ冗談!......そうよね、頼りにされる側よね、先生だから」
「?」
一瞬先生の表情が曇った気がするがすぐにニコニコしながら喋りかけてきたので杞憂というやつだろう。
――――――――――――
そして......
―――夜になっちゃいました。
「なんで誰も助けにこないのよぉぉぉ!!!???」
「先生!?」
先生が壊れた。
夜になるにつれて口数が少なくなってきたとは思っていたが、どうやら限界が来たらしい。
まさか先生にこんな一面があったとは。
「ここで死んじゃうのやだよぉぉぉ!助けてよ鏑木くん!」
僕の服に
今誰かがこの図を見て、生徒と先生と答えることができるだろうか。
「ちょっ!?えぇ!?さっきまで『先生が必ず助けるから安心してね?』ってめちゃくちゃかっこいいこと言ってたじゃないですか!?」
頼りになるいつもの先生はどこへ行ったのだろう?
もしかしてこれが素の状態なのか?
「だって先生としての面子があるし、こんな時間まで助けが来ないなんて思ってなかったんだもん!!!」
「ようするに何の策もなしで完全に他人任せだったと?」
「びぇぇぇん!!!」
僕が悪気なく言うと、先生がまたもやガチ泣きしてしまった。
図星かよ!?
しかも理由が思ったより子供っぽい。
見栄を張ってただけだったのか。
「冗談ですってば!分かりました!流石にもうここで待っていても仕方がないのでそろそろ登りましょう?」
出発しようとして立ち上がるも、先生は一歩も動く気配がない。
「ななみ足痛い!おんぶ!」
『ななみ』!?
なんかさっきから衝撃的すぎて理解が追いつかない。
普段は自分のことを『先生』と言っているが、これもおそらくは見栄を張るために言っていたのだろうか?
「ほんとにどうしちゃったんですか!?流石におんぶはできませんよ!?」
「!?じゃあななみ置いてくの?やだよぉ!置いてかないでぇ!!!びぇぇぇん!」
駄々っ子のようにじたばたする先生。
そろそろ、ギャップがどうこうのレベルではなくなってきた。
「分かりました!おんぶですね?乗ってください」
仕方なくしゃがむと、先生がぴょこんと乗ってくる。
普通に動けるじゃん......。
「わぁ!やった!鏑木くんの背中あったかいね♡」
「調子狂うなぁ......」
「ごーごー!」
こうして僕は山道を登り始めた。
――――――――――――
子供verの先生を背中に乗せて歩くことしばしば、広く開けた場所に出てきた。
「やっぱりこんな先生嫌だよね?ごめんね?」
今度は急にしおらしくなる先生。
自分呼びが『先生』になっていることからすると、元の先生に戻ったのだろうか?
「最初は僕も驚きましたけど、慣れてきたら愛嬌があっていいんじゃないですか?」
先生の方は見ずに、からかうようにして言う。
「あっ、愛嬌!?大人をからかうのはやめなさい!」
プンスカと怒る先生。
いや、背中に乗った状態で言われても......
「そもそもなぜ見栄を張って頼れる先生を演じてたんですか?」
先生はしばらく黙っていたが、考え込んだあと、静かに口を開けた。
「......先生、昔はよく人に甘えてたんだけど、ある時友達のことを助けたら『頼れる人』っていうイメージが広がってしまったの。それでみんなが先生を頼るようになって、しっかりしなくちゃって思い始めて今までこうして頼れるキャラを必死で作ってきたの......」
「そうだったんですか、じゃあ今もほんとは人に甘えたいってことなんですよね?」
先生の方を向き、ちょっといたずらっぽく言うと、先生は顔を赤らめる。
「ま、まぁ本音を言うとそういうことね!誰にもこんな姿見せられないけど......」
『誰にも』の中に僕は含まれるのだろうか。
しかし先生は偽りの自分でいる時も、心の中には甘えたいという欲求があるらしい。
「僕は見ちゃったわけですし、誰もいないところなら僕に甘えてもいいんじゃないですか?誰にも言わないですし、別に変だとは一切思いませんよ」
「鏑木君......。でも先生たちここで迷いに迷って誰にも看取られずに死んでしまうから意味ないと思うわよ?」
物騒なことを言い始め、ズーンと沈んでいく先生だが、僕はまだ諦めていない。
「......先生、さっきいた場所と違ってここは空気が澄んでますよね?」
先程から、周りに木がないため、澄み切った空気の匂いしかしない。
「?落ちてしばらくいたところは結構木の匂いがしていたから、そこと比べると木の匂いもあまりしないし、空気が澄んでるんでしょうね?でもそれがどうしたの?」
「ですよね」
どうやら先生も匂いの違いには気づいていたようだ。
「?」
何を言っているのかわからないと言った様子で首を傾げる先生。
まぁこの作戦を言ったところで100人中100人は「は?」と思うだろう頭のおかしな作戦だからな。
だがこの作戦は今のこの状況でしかできない。
「―――なら僕たち助かるかも知れません」
ここから先は完全なる賭けだ。
僕は、いや、僕たちは信じるしかない。
救世主の登場を。
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