3限目……今のゾンビってどんなのさ

 講師の屍之山しのやまです。前回からさらに受講者数も増え、熱心な生徒さんから放課後応援コメントに質問もいただき、嬉しく思っています。

 ゾンビ学を専門にしていると、皆さんがどこまでゾンビをご存知でどこを疑問に思うかに疎くなってきますので、何かあった方は気軽にご質問いただけるとありがたいです。もちろん個別に解答しますが、ある程度多かった質問はQ&Aとして本講座で改めて解説したいと思います。それでは第3回目の講義を始めましょう。


【ゾンビウィルスとは何か】

 元々ゾンビとは何かと、今のゾンビ映画を形成した元祖のことまではお話ししましたね。ここからのお話はゾンビを創作に使いたいと思っている皆さんにも大事になってくるかと思います。なぜなら、今回はゾンビが多様化し日本でも格段にゾンビものが作りやすくなったきっかけと、それによって現代のゾンビものはどうなったかまでお話しするからです。


 そこに至るまでもう少しだけ、ゾンビの歴史についてお付き合いください。

 2限目で触れた、ロメロ監督の作品をきっかけに70年代~80年代にかけてゾンビ映画界隈は盛り上がり、数々の名作も誕生しました。『バタリアン』『サンゲリア』『死霊のはらわた』など皆さんも何となく聞いたことがあるのではないでしょうか。

 ただ、Wikipediaの年代別ゾンビ映画一覧を見るとわかるのですが、作っているのは主に欧米諸国です。台湾や香港は中国の有名なモンスターのキョンシーと絡めたゾンビものがちらほらありますが、日本ではほとんど作られていません。なぜなら、日本は土葬文化がほぼなく火葬が主流なので、復活させようにも死体がないんですね。


 ゾンビ映画からは遠かったのですが、ゾンビに革命的な影響を与える作品が日本で製作されます。それは皆さんご存知、1996年にカプコンから発売されたゲーム『バイオハザード』です。何が新しかったかというと、ここでのゾンビは復活した死者ではなく、生物兵器の開発過程で生まれたウィルスによる感染者だということです。バイオ~の舞台はアメリカですが、これでキリスト教や土葬の文化圏以外でも格段にゾンビものが作りやすくなりました。


 そして、そこから派生したのが“走る”ゾンビです。

 ゾンビが走るというのはコメディ映画からゲームに、ゲームから映画に逆輸入された設定です。映画だと筋肉が腐りかけで鈍いゾンビに対しても転んだり狼狽えたり俳優が何とかしてくれますが、現実のプレイヤーがいるゲームではそうはいきません。恐怖を煽るため、またアクションが1フレームに収まりやすいよう、ものすごいスピードで追ってくるゾンビはバイオ~以外のゲームでもしばしば利用されました。


 映画でウィルス性のゾンビを有名にしたのは2003年のイギリス映画『28日後...』でしょう。監督は昨年続編が公開された『トレインスポッティング』などで有名なダニー・ボイルです。

 この作品のゾンビは、生物を凶暴化させるウィルスによって怒りに支配された人間が襲い掛かってくるというもので、大量の感染者が全力疾走してくる上、眼球に感染者の血液が一滴入っただけでアウト、即感染というハードモードです。

 主演は『ダークナイト』三部作やアカデミー作品賞候補『ダンケルク』にも出演しているキリアン・マーフィーですが、この映画ではまだそれほど売れていない彼のオールヌードも映っています。映画の『バイオハザード』ではミラ・ジョヴォヴィッチがノーパンなのは一部の界隈で有名ですし、そういうゾンビ映画は売れるというジンクスでもあるんでしょうか。


 下世話な話をしましたが、ウィルスで感染するゾンビという概念はゾンビものの幅を大いに広げました。

 ウィルスですから感染経路や特効薬での治療は可能か否かなどで難易度も設定できますし、さらに強力なモンスター化させることも、逆に知能を取り戻したり人間以上の知能を持ったゾンビに持っていくこともできます。

 また、死者復活とは異なるのでゾンビという呼称ではなく「感染者」など別の呼び方をすることで、ブードゥー教との宗教問題にも折り合いがつく、腐ってなくてもいいので見た目がグロテスクすぎず、レーティングを下げやすいなど映画的にも助かる点は多いですね。


 日本でもやりやすくなった上、見た目や知能もひとつに縛られなくなったためか、美少女のゾンビなどライトノベルでも取り入れられるようになりましたね。個人的には一度死んで復活しただけで、理性もあるゾンビはあまり好みではありません。美形ならむしろ白目を剥いて人肉に食らいついてほしいものです。


 とはいえ、日本のアニメだけでなく、海外の映画でも『ウォーム・ボディーズ』などゾンビとの恋愛ものなどもありますし、ロメロ監督の「何かを表すのにゾンビを使う」黎明期から発展し続けた今、「ゾンビを表現するため要素として何を使うか」の時代に変わってきたのかもしれません。


 ゾンビウィルスという発明から、ゾンビの自由度が格段に上がったことがわかりましたね。ゾンビを創作に使いたい皆さんの中でもハードルが少し下がったように感じたのではないでしょうか。


 ざっくりでしたが、ゾンビの歴史に関する講義はこれで終えたいと思います。お疲れ様でした。

 次回は少々休憩ということで、「ゾンビに興味を持ったけど、何から見ればいいの?」という皆さんに初心者向けのゾンビもの紹介をしていきたいと思います。創作には方法論だけでなく、過去の名作も大切ですからね。肩の力を抜いて、一緒に見ていきましょう。

 では、今回の講義を終わります。お疲れ様でした。

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