第11話 万国の奴隷よ、団結せよ!
「共産主義者は奴隷階級の直面する目的と利益とを達成するために闘うが、しかし、現在の運動のなかにあって、同時に運動の未来を代表する」
偉大なる同志書記長が、厳かな声でラジオ演説を開始した。
貴賓席にいるルーシヴィアはマイクとラジオという不思議な魔道具を興味深げに見つめていた。
隣には、何かのお祭りかと勘違いした風なカーロッタの姿がある。
付き添いとして、リディアも居た。彼女には本当に世話になっている。
要約するとこうだ。
「共産党は、
「一言でいえば、共産主義者は、いたるところで、現存の社会ならびに政治状態に反対するすべての革命運動を支持する」
「すべてこれらの運動において、共産主義者は、所有の問題を、それがどの程度に発展した形態をとっていようとも、運動の根本問題として強調する」
どうにも政治的な話のようで、ルーシヴィアでさえもよく理解できないでいた。隣の姉を見ると酷く真面目な表情をしている。これは何もわかっていないときの顔だ。
「……最後に、共産主義者は、いたるところで、世界すべての圧政からの解放者の提携と協調とに努力する。
共産主義者は、自分の見解や意図をかくすことを恥とする」
どうやら、この長い演説も締めくくりのようだ。
正直に言うと、ルーシヴィアはこのとき少々退屈していた。
カーロッタ? 言うまでもない。
リディアは目を潤ませて感動している様子だった。
「共産主義者の目的は、既存の全社会組織を暴力的に転覆することによってのみ達成できることを、公然と宣言する!」
突然スターリンは声を張り上げた。
「貴族階級を、共産主義革命のまえに戦慄せしめよ!!」
さらに声量は上がる。
「
奴隷は失うものはない。確かにその通りだ。しかし、世界……?
このとき、ルーシヴィアは何も理解できていなかった。
だが、この瞬間が自分たちの原点だとのちに振り返るようになる。
「万国の
隣ではつられたカーロッタが盛大に拍手をしている。リディアは言うまでもない。
彼が救った奴隷はいまだ
なんだか勢いだけの演説だったような気もする。
それでも……それでも、奴隷を救おうという情熱が伝わってきた。まるで皇帝に抑圧された農奴の怨嗟の声を見てきたかのような見事な演説だった。この人なら、きっと。
「この人なら、本当に私たちのような奴隷を救ってくれるかもしれない」
「ふふ、夢物語ですね。でも、私も姉さんに賛成です」
カーロッタとルーシヴィアの胸の内に小さな――しかし激しく燃え上がらんとする――炎が宿ったのだった。
『万国の奴隷よ、団結せよ』
このスローガンはやがて世界中に広まることになる。布教したのはもちろん姉妹だった。
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