stage 39 Eros & Thanatos -Ayaka side-

 白昼夢?


(何かがおかしい・・・)


クラクラと漂い始める死の匂い。

危険な高揚が全身を駆け巡る。


シンイチとアヤカが観想の中で交わる。


2つの意識が目まぐるしく入れ替わり、快楽は激しさを増す。


ルンが中央脈管に集まり、留まり、沁み込む。


水に水を重ねるが如き一切清浄の性瑜伽が、いつ終わるともなく続いていた。


発作の予兆・・・。


「ごめんねカリン。ちょっと一服つけさせてもらうわ。たまにはあなたも一緒にどう?トンレサップ産の上物よ」


「いいえ。けっこうです・・・」


「ふぅ~。カリン、呪殺に反対って意見は私もあなたと同じなの。でもね、誰かがやらなきゃ。世の中綺麗事だけじゃない」


「頭では理解してるつもりです。王の教えはまぎれもない真理。だけど・・・、だけど私は呪殺なんて絶対にイヤ!」


「カリンにはあまり知らされていないけどね。うっちーさんだってジンさんだって好き好んで汚れ仕事をやってるんじゃない。あの二人は世界中の誰よりも明るい未来を願ってる」


「はい・・・」


「私は暴力による平和なんて認めない。銃を持って平和を唱える行為は自分本位の価値観の押し付け。だけど・・・」


「・・・・・・」


「傍観者は、もっともっと大っ嫌い!」


「・・・・・・・」


「彼らに任せてばかりはいられないよ。誰かがやらなきゃ・・・。だったら私がってだけ。私がヴァジュラバイラヴァの灌頂を受ける」


「アヤカさん・・・。いつもとは別人たみたい」


「そう?このオカマちゃんには七色の人格が棲み着いてるの。今はシンイチの成分が強いのかもね。愚かな衆生は憤怒で真理へ導くべし!キャハハハ」


「・・・・・」


「さぁ、気が変わらないうちにチャチャッと儀式を済ませちゃおう!良い感じでキマってるうちにさ」


「強いんですねアヤカさんは・・・。あなたに覚悟はありますか?」


「強くなんてないよ。私ほど自分勝手で弱い人間はいないから。私にあるのは覚悟だけ・・・」


「・・・・・・」


「私には覚悟しかない」


(ごめんね・・・。カズさん)


     ※     ※


 紫のクルタに身を包んだ私は、静かな地下室に歩みを進めた。

後ろに続くのは、盆の上に密教法具を掲げたカリンである。


「それでは始めます。アヤカさんはヴァーチャル祭壇の前で儀式を行って下さい」


ゆっくりとうなずいた私は、その場で3度、五体投地を繰り返した後に礼拝偈らいはいげを唱えた。


シャンバラ王に頂礼せん。

虚空の如き無数の一切有情が、

菩提の真髄を得るまで、

聖なるシャンバラ王に帰依し奉る。

本尊曼荼羅の諸仏に帰依し奉る。

世尊に帰依し奉る。

法に帰依し奉る。

僧伽に帰依し奉る。


「お父様。このアヤカにヴァジュラバイラヴァの極秘灌頂を授け給え」


「いいんだな?カリン。最後に確認する。われがの能力を付与できるのはただ一人」


「構いません・・・」


     ※     ※


シャンバラ王

「お前は今、一切如来の部族に仲間入りを果たす。金剛智を生成させよう。この知を持ってすれば、ありとあらゆる解脱の境地を得るであろう。欲望を拒まぬ密教の修行により最勝楽を享受せよ」


アヤカ

「アホ・マハー・スカ(大いなる快楽)、アホ・マハー・スカ、アホ・マハー・スカ」


シャンバラ王

「大便と小便と血と精液と、また五肉を捧げる。リンガへの無上の愛を示しつつ金剛杵に口づけする時、仏子たるお前は歓喜に満たされるであろう。だが、この愉楽を誰にも告げてはならぬ。もしこの旨を誰かに漏らせばただちにその身体は引き裂かれてしまうだろう」


アヤカ

「アホ・マハー・スカ、アホ・マハー・スカ、アホ・マハー・スカ」


シャンバラ王

「お前は今より冥界の王。悉地を得たれ!」


アヤカ

「オーム・シュリー・ヴァジュラ・ヘー・ヘー・ル・ル・カン・フン・フン・パト・ダーキニージャーラサンヴァラン・スヴァーハー」


シャンバラ王

「法界は一つ。 幻による幻の殺しは成立せず。よって、勝義において呪い殺すこともなければ呪い殺されることもない。救済し難い衆生への大慈悲。すなわち、度脱は利他行。性瑜伽と度脱のない密教はまやかし。汝、疑惑を生ずるなかれ」


アヤカ

「御意のままに。われこそはヴァジュラバイラヴァ。猛悪なる降伏の霊威を掌握す。三界の一切が敵対しようとも、けっして恐れはしないだろう」


    ※     ※


 シェルターを出た二人は、塩ノ山から放たれる不思議な虹を見つめていた。


この日以降、度脱が駆使できるようになった私は、デスノートを拾った夜神月のごとく、次々とシャンバラ国に害をなす仏敵たちを葬り去った。


日本に呪殺の嵐が吹き荒れたのである。


     ※     ※


 『夜神 月』(やがみ ライト、Light Yagami)は、漫画『DEATH NOTE』の主人公。

自らを新世界の神と称し、キラ社会実現のために大量の人間を殺戮するなど、独善的で歪んだ正義感の持ち主。建前としては「腐った人間は死んだ方がいい」という信念のもと、犯罪者や道徳のない人間を殺していたが、実際には自身にとって障害となりうる者は善人であろうと味方であろうとも容赦なく手にかけていた。

※引用「夜神月」『フリー百科事典・ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)。2018年3月25日12時(日本時間)現在での最新版を取得。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る