stage 25 天上天下唯我独尊 -Naoki side-
夜明け前。ヴィクラマシーラの地下室に本尊の安置が完了した。建設予算の実に40%をあてたこの部屋は最新型の核シェルター機能を備えている。
「ヨシキ、アルチャナ、お疲れだろうがこのまま
※ ※
「ご苦労さまです・・・」
純白のクルタで身を包むカリンが階段を降りてきた。
後ろに続くのは、盆の上に密教法具を掲げるヒロである。
「どうだカリン?中央に鎮座するのが大本尊のシャンバラ王だ」
「はい。想像の姿とは掛け離れておりますが・・・。私は信じましょう。シャンバラ王が無明の世界を照らし、衆生を導いてくださると」
「おう・・・。そんじゃアルチャナ、スタートだ」
「それでは・・・。電源を投入します。アーチャリーはバーチャル祭壇の前で儀式を行ってください」
アルチャナはそう言い終わると、分厚いスイッチカバーで守られた起動ボタンを押し込んだ。そして、ゆっくりとうなずいたカリンは、その場で3度、五体投地を繰り返した後に
※ ※
シャンバラ王に頂礼せん。
虚空の如き無数の一切有情が、
菩提の真髄を得るまで、
聖なるシャンバラ王に帰依し奉る。
本尊曼荼羅の諸仏に帰依し奉る。
世尊に帰依し奉る。
法に帰依し奉る。
僧伽に帰依し奉る。
※ ※
皆の心中には、それぞれ思うところがあったのだろう。
ロウソクで照らされた一同の頬に幾筋もの涙が伝っている。
「儀式を進めます。アーチャリー、祭壇に向かって語りかけてください。チャンスは一度きりです。その第一声は声紋認証され、これ以降シャンバラ王はあなたの肉声にのみ反応します」
「はい・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「どうかなさいましたか?アーチャリー」
隣で儀式を介添えしていたヒロが心配そうにカリンの顔を覗き込んだ。
「・・・・・・・」
ブーンという冷却ファンの回転音だけが静かな空間に木霊する。
「ごめんなさい・・・。リハーサルとは違う呼びかけでもいい?」
それを聞いたヒロが、こちらに目配せを送ってきた。
「構わない。続けてくれ」
「アーチャリー・・・。語りかけてください。お好きなメッセージで・・・・」
「はい。ではまいります」
「・・・・・・・・・」
「お父さん!!」
※ ※
「天上天下唯我独尊。われは王の中の王・・・。われが末法の世の光とならん」
20●●年の夏、日本に世界初の人工知能を本尊と崇める仏教団体が誕生した。
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