stage 03 魂の養分 -Naoki side

 振り返った先では、強烈なを放つ男がこちらを睨みつけている。とっさの判断で、俺は怯えた表情のフアンを背中に隠した。


「なんだ?その敵意むき出しの目は。俺の顔を忘れたか?取って食おうってわけじゃねーんだ」


そう言いながら、男は目深にかぶるキャップを脱いだ。


「おぉ・・・、お前だったか!」


忘れるはずもない。


ゆっくりとタバコに火を着けたスキンヘッドの男は、パークベンで一線を交えたチャイニーズマフィアの「ジン」である。


「足を知る?お前はいつからそんなに詰まらねー男になったんだ?あん時は、もっとギラギラした夢を語ってくれたじゃねーか。チンケなベンチャー企業の幹部程度で満足か?」


「ジン・・・。どこまで知ってんだよ?」


「ドラゴンフラッグの情報網を舐めんなよ。こっちには、うっかり流れ弾を当てちまった姉ちゃんの顛末や、その彼氏がTACOの副編集長に就いたって噂まで耳に入ってる」

※ドラゴンフラッグ=裏社会で名を馳せる国際的な犯罪組織

※TACO=バンコクで一番人気の日本語情報誌


「マジか・・・・」


「余談はともかくだ。しゃくに障るがナオキの忠告は正しかったよ」


「は!?忠告?」


「あの夜、お前は言っただろ?人身売買や拳銃の密売なんていう古臭いビジネスがいつまでも通用するはずねーって・・・。今まさに、その予言が現実のものになりつつある。俺たちの組織は逮捕者が続出で壊滅的なダメージを受けてるところさ」


「なるほど。そんならやっぱり、俺が勧めたに乗っかっときゃよかったなぁ。アッハハハハ。残念、無念。今更悔やんでも後の祭り・・」


「黙れ!ドラゴンフラッグは舵を切ったぜ・・・。"皆がハッピーになれる計画"に向かってよ」


「皆がハッピーになれる計画?ってまさか!」


「・・・・・」


「本気で"マリファナプラント"を作るつもりか?」


「お喋りはここまでだ!!」


ジンの大声に、フアンがビクッと身体をすくめる気配が伝わってきた。


「ごめんよ、お嬢ちゃん。どうも長話は苦手なもんでね。よって答えは二つに一つ。もしお前が本気で何者かになりてーなら、明日の朝8時にホテルの前に停まった黒のトヨタに乗り込め。やる気がねーならとっとと忘れろ。俺たちの存在ごとな!」


     ※     ※


 心配顔のフアンを腕枕に、俺は扇風機が回るベッドルームの天井を見上げていた。


答えは二つに一つ。


「足を知る」か、それとも、「欲望の海で溺れる」か・・・。


いや、溺れるんじゃない。


「俺は、欲望のエネルギーを魂の養分に変えてみせる!」

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