第二章 第9話「十人十色」

いよいよ最前線合同訓練が明日に迫った今日、俺たち第4隊は支部長室に呼び出された。


「いいか、なにがなんでも優勝を勝ち取ってこい!」


「「はい!」」


いつになく支部長のテンションも高い。


「だが、失った気憶ロスト・メモリーは極力使うな、お前たちも理解していると思うがその力を使いこなすにはまだお前たちは未熟すぎる」


残念だけどその通りだ…全く体がついていかない、どれだけ頑張っても1〜2分てとこだ。

俺の影武装シャドウプロテクトも剣一本造るのに消費する気力ヴァイタルが異常だ、その分強いのだが…


「当日の日程は1日目が競技とタッグバトル、2日目が全員参加の1対1のバトル、3日目がその決勝、の計3日間だ。それの振り分けは任せよう」


「了解しました。」


「以上だ…それと、その3日間のお前ら任務は他の隊が受け持つ、その事も念頭において合同訓練に取り組むように…」


「は…はい…」


圧迫がすごい…重力をかけられてないのに体が重かった…


◇◇◇


「みんなどうせこのあと空いてるでしょ?じゃあさ街にでもでてパーッと買い物にでも行かない?ね!」


とアオイが皆に提案する。

もちろん、それはここのところ元気のないハヅキへの配慮なのだろう…

そう、ハヅキだけまだ失った気憶を発現できてないのだ


「…だな、ショウスケも特訓とか言わずに来いよ」


「わぁってるよ!」


断る理由もなく、俺たちは全員で午後から街へと繰り出した。


ー都市サウスステイト


王都から南に位置する第3支部のある街からほど近い都市“サウスステイト”、そこのモールに俺たちは来ていた。


「こんなデカイとこ久々に来たな…」


「合同訓練の会場が第1支部ってことは近くに海あるよね!?水着買ってこうよ〜」


「あのなぁ遊びに行くんじゃねぇんだから、いるものだけ買えよ」


「とか言っちゃってぇあたしの水着姿見たいんじゃないのぉ〜?」


「テメェほんとぶっ飛ばしてやろうか」


なんでこいつはこんなにテンションが高いんだと少しイラつきながらアオイを見る。


「あたしとハヅキは向こう回ってくるから!じゃっ!」


「えっ私?ちょっ」


アオイはハヅキの手を引いてモールの人混みの中へ消えていった。


「お前らは?」


と後ろにいる男2人に聞く。


「僕は本屋にいるよ、終わったら連絡して」


「俺は特にねぇかな」


しかし、協調性ねぇなうちの隊は…

そして、結果残された影炎えいえんの2人


「何するんだ?」


「あ〜…ゲーセンでもいくか」


「それいいな」


俺たちは久々のゲームセンターでひとしきり遊んだあとみんなと合流し帰路についた。


「で、結局」

「俺らが」

「荷物持ちなんだね…」


女2人の大荷物を男3人で抱えている、ダイチは自分の荷物もあるが…

ていうかこいつらちゃっかり水着も買ってやがる…


「まぁいいか…」


俺は朝よりも元気になっているハヅキを見て少し安心する。


「荷物置いたら景気づけに飯でも行こうか、さっきからこいつの腹の虫がうるせぇし」


「うるせぇな鳴るもんはしょうがねぇだろ」


そのまま支部に戻り俺たちは夕食を取った。


ー夜


「たまには大浴場も悪くないな」


ダイチとショウスケと寮へ戻る途中、ふと俺は立ち止まる。


「月永くんどうしたの?」


「あぁ星が綺麗だからさちょっと眺めてくよ」


「相変わらず空見るの好きだな、俺らは先戻ってるぞー」


「おう」


俺は置かれているベンチへ腰掛ける。


「まだ落ち込んでんの?」


「月永くん…」


そこに先にいたのはハヅキだった。


「だって、私だけまだ…それに予言だって」


「あのなぁ、そんな気にすることじゃないだろ?予言だってできれば合同訓練までにって話なんだろ?」


「そうだけど…」


皆、発現時の状況が違った…それ故に“これ”といったアドバイスができない。

俺はスッと立ち上がる。


「…十人十色って言葉知ってるだろ?」


「うん…」


「あれさ、気術ヴァイタリティにも同じことが言えるんだ。この世界には全く同じ気術は存在しないって言われてる。」


「だから?」


「…だからさ、ハヅキの能力は唯一無二なんだぜ?予言だかなんだかに決めつけられて、それに縛られるのはおかしいって思わないか?」


「…」


「ハヅキのペースで良いんだよ、未来は自分で作るもんだからな」


ハヅキがクスッと笑う


「わけわかんない」


「俺、こういうの苦手なんだ、すまんな」


月の下2人の笑い声が響く…


そして、夜が明けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る