第3話

[7月9日 曇り

とくに目立った変化はなし。流動食を少し。体重は減り続けている。]



「それでも世間も随分いい加減になってきたんだよ。」

骨の目立ち出した君の背中を蒸しタオルで拭いてやりながら僕はつぶやいた。

「本来なら、君みたいに身寄りのない患者は医療機関に収容して、治療研究の対象にしなければならないのに、僕みたいな面倒みる相手がいて、とくに変わった症状がない限り、届け出なくても見逃してくれるようになってきた。…患者が多すぎるからね。」

そして裸の背中にそっとタオルケットを掛ける。

「さ、きれいになったよ。」

返事は、半分枕に埋もれた、くぐもったハミングだった。

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