「好き」の距離

饕餮

ルナマリアの章

プロローグ

 ずっと独りでした。そう感じておりました。


 兄たちも姉も健康で才能豊かで容姿端麗、煌びやかな兄弟に比べたましたら、病気がちで才能も容姿も凡庸なわたくし。そんなわたくしを家族や一族の者は可愛がってくださいます。


 けれど、どんなに努力をしても、彼らの才能に追いつくこともなければ追いつけるはずもなく……。ですからいつも一人で本を読んでおりました。わたくしにできることは、それしかなかったのですから。


 そんな彼らよりも唯一秀でていたものがあるとすれば、読んだ本の数と料理――お菓子作りくらいでしょうか。

 それくらい、本とお菓子作りが好きでした。


 逆に言えば、それしかできることはなかったのです。貴族女性としての嗜みとは言い難いですが、わたくしができることといえばそれくらいしかなかったのですから。

 だからこそ、両親も兄たちも姉も、わたくしの行動については何も仰らず、上手にできれば褒めてくださいました。それがとても嬉しかったのです。



 あの日……貴方に出会ってからは、すごく幸せでした。世界が輝いてみえました。だから忘れてしまっていたのです、わたくしの容姿のことを――


 それに気づいた時、わたくしの世界は色を失いました。


 ただ単に、わたくしは



 ――貴方に笑ってほしかっただけなのです――


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